10.ウエスト・リッチジャパン

(東京地方裁判所平成26年12月4日判決)

 本判決は,CO2排出権取引商法の仕組みから同商法を公序良俗に反する違法なものであると判示する初の裁判例である。また,様々な論点についても有意な判示がある。判示の概要は以下のとおり。
 取引の違法性:「本件取引は,被告会社が提示するECX(欧州気候取引所)及びカバー取引先における取引レートを差金決済指標とする私的な差金決済契約であり,売買差金の額は,顧客が買ったあるいは売ったとされる「CO2排出権の価格」を「ユーロ円為替レート」によって換算した額と顧客がその後に売ったあるいは買ったとされる「CO2排出権の価格」を「ユーロ円為替レート」によって換算した額との差額によって算出されるところ,そうであれば,被告会社から提示される「CO2排出権の価格」や「ユーロ円為替レート」の基準とされる為替レートは,被告会社にも原告にも予見することができず,また,その意思によって自由に支配することができないものであるから,本件取引は,偶然の事情によって利益の得喪を争うものというべきであり,賭博行為に該当して違法であり,公序良俗にも反するものというべきである。そして,本件取引の賭博行為としての違法性を阻却する事由の主張立証はない。」,「のみならず,本件取引においては,差金決済の指標となるレートが,「CO2排出権の価格」や「ユーロ円為替レート」が被告会社において一方的,恣意的に決定され,それに基づいて原告の損益が確定されていた高度の蓋然性があるというべきところ,そうであれば,本件取引は,そのような本件取引における構造的な利益相反状況や顧客に不利益になる事情を秘して行われた詐欺的な取引であるというべきである。」
 会社の説明を信じたに過ぎないと主張した勧誘者の責任:上司の説明を信じたとは容易に考えられないし,仮にそのように信じたとしても過失がある。
 取引当時取締役ではなく原告との接触もなかった者(従業員ではある上,出資者であり,後に代表取締役となっている者)の責任:「会社の規模や営業の実態からすると,被告会社の役員,従業員は,全員が共謀して,組織的に顧客を本件取引に勧誘していたものと認めるのが相当である。」
 損益相殺の否定:「本件取引は,被告会社が自己の一方的,恣意的に設定する取引レートによる差金決済を行ったと称して原告に損害を与えたものであり,その実態は,詐欺的な犯罪行為そのものであって,反倫理的行為に該当することは明らかであるところ,被告会社は,本件取引を正常な取引のように装い,原告に対し,上記金員を配当金名下に交付したというのであるから,その交付は,専ら,原告をして被告会社が本件取引を正常なものと誤信させることにより,本件取引を実行し,その発覚を防ぐ手段にほかならないというべきである。」
 不法原因給付の主張に対して:「原告と被告会社との間の本件取引に基づく証拠金名下の金銭の交付が不法原因給付に当たるとしても,不法な原因は被告会社についてのみ存したというべきであるから,原告が被告会社に対してその賠償を求めることが民法708条の趣旨に照らして許されないということはできない。」
 和解契約に基づく損害賠償請求権の消滅について:「原告と被告会社との間で「取引終了承諾書」が取り交わされた際,上記損害賠償請求権の存否について争いがあり,その点について互いに譲歩をして原告と被告会社との間に存する争いをやめることを約する趣旨で上記書面が取り交わされたと認めるに足りる証拠はない。」

 CO2排出権取引商法の迅速な被害救済,被害の収束に大いに有用な裁判例であり,広く援用されることになるものと思われる。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(確定)
⇒先物取引裁判例集72巻132頁
⇒消費者法ニュース103号292頁

1.K・モンスター
(東京高等裁判所平成20年10月30日判決)
この種取引の取引自体の違法性に関して最も援用されることが多い判決
2.ロイヤルトラストインターナショナル
(東京地方裁判所平成25年12月12日判決)
金地金取引分割払取引業者らに損害賠償を命じるもの
3.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年11月4日判決)
凄惨な被害に対する,裁判所の優しさのうかがわれる判決
4.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成28年12月26日判決)
CO2排出権取引商法に藉口した詐欺商法について,個別の勧誘担当者のみではなく,業者の営業担当従業員全員に対して,違法行為を助長又は幇助したものとして損害賠償を命じた事例
5.ゴールドリンク
(東京高等裁判所平成30年1月25日判決,東京地方裁判所平成29年7月5日判決)
貴金属分割払いまがい取引である「ゴールド積立くん」「プラチナ積立くん」(商標登録を得ているようである)などと称する商法を公序良俗に反するとして損害賠償請求を全部認容した事例
6.CIS
(東京地方裁判所令和元年11月26日判決)
貴金属分割払いまがい取引の違法性を詳細に判示したもの
7.あおぞら,海翔物産
(東京高等裁判所平成28年4月13日判決,東京地方裁判所平成27年9月18日判決)
CO2排出権取引をAX Markets Limited社を通じて取り次ぐと称していたこと自体が詐欺に当たるとして損害賠償請求を認容した事例
8.プロフトラスト
(東京高等裁判所平成24年4月26日判決,東京地方裁判所平成22年6月10日判決)
この種商法を行う業者の構成員が個別の関与にかかわらず責任を負うとしたもの
9.アドニス
(東京地方裁判所平成26年7月18日判決)
金地金売買契約について,詳細な検討を加えて公序良俗に違反すると判示したもの
10.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成26年12月4日判決)
CO2排出権取引商法を公序良俗に反すると断じたもの。損益相殺の否定,被害者との個別具体的な接触のない構成員の責任,不法原因給付の主張の排斥,和解契約の否定など見るべきところも多い
11.フロンティア・エッジ
(東京地方裁判所平成25年3月19日判決)
この種商法の仕組み自体の違法性について説得的な判示をしている
12.日本デリックス
(東京高等裁判所平成25年4月11日判決)
CO2排出権取引商法に関するもの 13.ネクストライフ
(東京地方裁判所平成26年10月21日判決)
CO2排出権取引商法に関するもの 14.ARAIアセットほか
(東京地方裁判所平成25年11月20日判決)
他社移籍後の取引の拡大についての責任,首謀的構成員の責任,破産・免責を受けた代表者の責任 15.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年8月25日判決,東京高等裁判所平成23年1月20日判決)
被害者が亡くなっている場合の適合性原則違反の主張立証に参考になる 16.プロフィット・コム
(東京地方裁判所平成23年11月22日判決)
商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 17.テクノ(東京地方裁判所平成24年1月18日判決) 商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性の評価を誤っていたとしても責任は左右されないと判示している 18.K&Kパートナーズ
(東京地方裁判所平成21年10月1日判決)
CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 19.ファーストエージェント
(東京地方裁判所平成21年5月25日判決)
スポット貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。取引益金の請求ができないことが明示されている部分がこの種商法の違法性をより強固に基礎付けうることとなった 20.ファーストエージェント
(東京高等裁判所平成20年3月27日判決,東京地方裁判所平成19年10月25日判決)
ロコロンドン貴金属商法についての初期の判決。業者からは判決にかかわらず損害の全部の賠償を受けた 21.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年3月25日判決)
貴金属スポット保証金取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性阻却事由がないこと,取引が正当なものだと信じていたと主張した勧誘担当者の責任,過失相殺の明示的な否定に見るべきところがある 22.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年4月10日判決)
16と同旨 23.K・モンスター
(東京地方裁判所平成21年3月16日判決,東京地方裁判所平成21年6月29日判決,東京高等裁判所平成21年7月15日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。業者の従業員がキャッシュカードを預かって勝手に金を引き出していたことが認定されている 24.ファーストライン(旧商号ジョイコーポレイション)
(東京地方裁判所平成26年11月13日判決)
口座開設後に辞任した役員らの責任を認めたもの 25.プロフトラスト
(東京地方裁判所平成21年10月5日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。スワップポイントを損害から控除していない 26.プロフィットコム
(東京地方裁判所平成21年12月16日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。先物取引の経験がある被害者について明示的に過失相殺を否定している 27.川研ファクター
(東京地方裁判所平成18年12月27日判決)
ニッパチ商法に関するもの。この種商法の違法性を端的に指摘する裁判例は珍しい