6.CIS

(東京地方裁判所令和元年11月26日判決)

 本判決は,10年ないし15年の分割払による金地金の売買契約の形式をとる取引について,実質的には中途解約時の金価格に基づく差金決済をすることを目的とした私的差金決済取引にほかならず,その違法性は重大であること等からすれば,取引秩序の維持及び顧客保護という商品先物取引法の趣旨目的を著しく没却するものであり,公序良俗に違反するとして,損害賠償請求の全部を認容したものである。この種取引の違法性を詳細に認定しており,参考になる。
 判示内容は以下のとおり。

 「金契約における分割金の支払が10年ないし15年の長期間にわたっていること,被告会社が原告に金地金を引き渡す義務は,かかる長期間の分割金の支払が終わった後に初めて発生するものであること,原告が同期間中いつでも金契約①ないし④を中途解約できるとされていること,中途解約された場合,被告が原告に対して精算金を支払う旨定められているところ,その精算金は,日々変動する東京商品取引所の金『標準取引』の1番限精算値に基づいて算定されるものであること,金契約①ないし④の契約書には,買主の選択により,ロスカットという投資や投機に係る取引に特有の制度を設定することができる旨の記載があったこと,金契約①の勧誘の際,「金投資」との文言を含む表題の書面が原告に交付されていること,原告は,金契約③の勧誘を受けた際,金契約②に係る金地金2kgの売却と130万円の追加入金をもって,金地金4kgが割り当てられる旨告げられていることなどに照らせば,金契約①ないし④の目的は,原告が金地金を購入して被告会社がその対価を得る点にあるのではなく,中途解約を前提として,中途解約時の金地金の時価と契約時の金地金の時価との差額を原告又は被告会社が授受する点にあると認めるのが相当である。
 以上より,本件取引は,金地金の売買契約の形式をとるものの,実質的には中途解約時の金価格に基づく差金決済をすることを目的とした私的差金決済取引にほかならず,商品先物取引法が『先物取引』として定める『当事者が将来の一定の時期において商品及びその対価の授受を約する売買取引であって,当該売買の目的物となっている商品の転売又は買戻しをしたときは差金の授受によって決済することができる取引』(商品先物取引法2条3項1号)と同一の性質を有する取引にあたるというべきである。
 そして,商品先物取引法6条1項,2項は,商品先物取引における秩序の維持及び顧客の保護等の観点から,何人も,商品について先物取引に類似する取引をするための施設を開設してはならず,何人も,同施設において先物取引に類似する取引をしてはならないと定め,商品市場類似施設の開設を禁止しているほか,同法329条は,何人も,商品先物取引業者等を相手方として行う場合を除き,商品市場における取引によらないで,商品市場における相場を利用して,差金を授受することを目的とする行為をしてはならないと定め,相場による賭博行為を禁止している。
 本件取引は,前述のとおり,その実態に鑑みれば先物取引に類似する取引に該当するというべきであるから,被告会社が本件取引をしたことは,商品先物取引法6条1項,2項に違反するものとを認められる。のみならず,本件取引は,前述のとおり,商品市場における取引によらないで,中途解約時の東京商品取引所における金相場を利用して,契約時と解約時の金価格に基づく差金決済をすることを目的としているから,同法329条に違反する私的差金決済取引であると認められる。
 その上,金契約①ないし④においては,いずれも購入代金の10.8%相当額の多額の手数料が発生し,これが分割金の第1回目の支払に併せて被告会社に支払われており,契約条項に照らしても,満期受渡しや中途解約のいずれにおいても,被告会社は当該手数料を利益として確保している。
 また,本件取引は商品市場における取引ではなく,原告と被告会社との間の相対取引であり,分割金の支払期間中に金の価格が下落し,原告が中途解約した場合には,原告に損失が生じる反面,被告会社に損失が生じることとなるから,本件取引は,原告と被告会社との間で常に利益相反状況にある。そうすると,被告会社としては,原告に対し,本件取引が利益相反状況下にある被告会社との間で行われることなどの説明をする必要があるが,被告会社が原告に対してこのような説明をしたことを示す証拠はない。
 更に,被告従業員は,5万円の利益を約束して金契約⑤を勧誘したほか,被告従業員らは,原告に対し,すぐに中途解約をすれば短期間で確実にもうかるなどと申し向け,本件取引を勧誘したことが認められる。こうした被告会社の従業員の言動は,不確実であるはずの金価格の変動について,価格が上昇する旨の断定的判断を提供し,その旨原告を誤認させるものであり,社会的相当性を逸脱する勧誘方法というほかない。
 以上によれば,本件取引は,商品市場類似施設の開設の禁止(商品先物取引法6条1項,2項)及び相場による賭博行為の禁止(同法329条)に違反するところ,これらの違反行為は,いずれも懲役刑を含む刑罰により厳しく規制されていることからして(同法357条,363条,365条),違法性は重大といえる。被告会社が手数料として多額の利益を確保する一方,原告と被告会社が利益相反状況にあることに関する被告会社からの説明はなく,断定的な説明が行われていることも併せ考慮すると,本件取引は,取引秩序の維持及び顧客保護のための方策を設けた商品先物取引法の趣旨目的を著しく没却するものといわざるを得ない。したがって,本件取引は公序良俗に違反し,不法行為としての違法性を有するものといえる。」

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(確定)

1.K・モンスター
(東京高等裁判所平成20年10月30日判決)
この種取引の取引自体の違法性に関して最も援用されることが多い判決
2.ロイヤルトラストインターナショナル
(東京地方裁判所平成25年12月12日判決)
金地金取引分割払取引業者らに損害賠償を命じるもの
3.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年11月4日判決)
凄惨な被害に対する,裁判所の優しさのうかがわれる判決
4.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成28年12月26日判決)
CO2排出権取引商法に藉口した詐欺商法について,個別の勧誘担当者のみではなく,業者の営業担当従業員全員に対して,違法行為を助長又は幇助したものとして損害賠償を命じた事例
5.ゴールドリンク
(東京高等裁判所平成30年1月25日判決,東京地方裁判所平成29年7月5日判決)
貴金属分割払いまがい取引である「ゴールド積立くん」「プラチナ積立くん」(商標登録を得ているようである)などと称する商法を公序良俗に反するとして損害賠償請求を全部認容した事例
6.CIS
(東京地方裁判所令和元年11月26日判決)
貴金属分割払いまがい取引の違法性を詳細に判示したもの
7.あおぞら,海翔物産
(東京高等裁判所平成28年4月13日判決,東京地方裁判所平成27年9月18日判決)
CO2排出権取引をAX Markets Limited社を通じて取り次ぐと称していたこと自体が詐欺に当たるとして損害賠償請求を認容した事例
8.プロフトラスト
(東京高等裁判所平成24年4月26日判決,東京地方裁判所平成22年6月10日判決)
この種商法を行う業者の構成員が個別の関与にかかわらず責任を負うとしたもの
9.アドニス
(東京地方裁判所平成26年7月18日判決)
金地金売買契約について,詳細な検討を加えて公序良俗に違反すると判示したもの
10.ウエスト・リッチジャパン
(東京地方裁判所平成26年12月4日判決)
CO2排出権取引商法を公序良俗に反すると断じたもの。損益相殺の否定,被害者との個別具体的な接触のない構成員の責任,不法原因給付の主張の排斥,和解契約の否定など見るべきところも多い
11.フロンティア・エッジ
(東京地方裁判所平成25年3月19日判決)
この種商法の仕組み自体の違法性について説得的な判示をしている
12.日本デリックス
(東京高等裁判所平成25年4月11日判決)
CO2排出権取引商法に関するもの 13.ネクストライフ
(東京地方裁判所平成26年10月21日判決)
CO2排出権取引商法に関するもの 14.ARAIアセットほか
(東京地方裁判所平成25年11月20日判決)
他社移籍後の取引の拡大についての責任,首謀的構成員の責任,破産・免責を受けた代表者の責任 15.オルネフ
(東京地方裁判所平成22年8月25日判決,東京高等裁判所平成23年1月20日判決)
被害者が亡くなっている場合の適合性原則違反の主張立証に参考になる 16.プロフィット・コム
(東京地方裁判所平成23年11月22日判決)
商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 17.テクノ(東京地方裁判所平成24年1月18日判決) 商品CFD取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性の評価を誤っていたとしても責任は左右されないと判示している 18.K&Kパートナーズ
(東京地方裁判所平成21年10月1日判決)
CFD取引の違法性を端的に指摘するもの 19.ファーストエージェント
(東京地方裁判所平成21年5月25日判決)
スポット貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。取引益金の請求ができないことが明示されている部分がこの種商法の違法性をより強固に基礎付けうることとなった 20.ファーストエージェント
(東京高等裁判所平成20年3月27日判決,東京地方裁判所平成19年10月25日判決)
ロコロンドン貴金属商法についての初期の判決。業者からは判決にかかわらず損害の全部の賠償を受けた 21.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年3月25日判決)
貴金属スポット保証金取引の違法性を端的に指摘するもの。違法性阻却事由がないこと,取引が正当なものだと信じていたと主張した勧誘担当者の責任,過失相殺の明示的な否定に見るべきところがある 22.あさひアセットマネジメント
(東京地方裁判所平成21年4月10日判決)
16と同旨 23.K・モンスター
(東京地方裁判所平成21年3月16日判決,東京地方裁判所平成21年6月29日判決,東京高等裁判所平成21年7月15日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。業者の従業員がキャッシュカードを預かって勝手に金を引き出していたことが認定されている 24.ファーストライン(旧商号ジョイコーポレイション)
(東京地方裁判所平成26年11月13日判決)
口座開設後に辞任した役員らの責任を認めたもの 25.プロフトラスト
(東京地方裁判所平成21年10月5日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。スワップポイントを損害から控除していない 26.プロフィットコム
(東京地方裁判所平成21年12月16日判決)
ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性を端的に指摘するもの。先物取引の経験がある被害者について明示的に過失相殺を否定している 27.川研ファクター
(東京地方裁判所平成18年12月27日判決)
ニッパチ商法に関するもの。この種商法の違法性を端的に指摘する裁判例は珍しい