昨今の事件処理について(①SNS型特殊詐欺、②デリバティブ取引、③CO2排出権取引) 弁護士太田賢志

  • SNS型特殊詐欺

大手プラットフォームプロバイダの一部が相当期間にわたり詐欺的広告を垂れ流していたため、そこからLINEに誘導され、特殊詐欺の被害に遭うケースがここ数年激増していた(その他マッチングアプリを経由する事例も多い。現在は対策が進んだこともあり、相談件数は減少傾向にある。)。

東京弁護士会が警告を出しているように、不正な事件処理を行う弁護士による二次被害を被ってから相談に来られる方も少なくなかった。当該事件類型は時間との勝負が重要となる場面が多く、二次被害によって数か月を無駄にしてしまうと、現実の回収に大きな影響を与える可能性がある。

例えばある被害者の方は、二次被害によって相談が遅れたことにより、既に他者の強制執行により配当遮断効が生じてしまい、振込先に残っていた預金の配当に参加することができないという事態に直面した。幸いなことにこの被害者の方は、その後犯罪資金の移転先口座等から被害額全額(弁護士費用及び遅延損害金を含む)を回収することができたが、このような事例を目にすると、二次被害の影響は極めて重大であると言わざるを得ない。

東京弁護士会の上記警告では、「当本部広告調査部会による調査の過程で、国際ロマンス詐欺の被害回復は現実には難しく、多くの場合、被害を全く回収できないか、ごく少額の回収にとどまることが多い」と記載されており、実際に被害回復手続きは容易でないというのが実情である。しかし、必ずしも「被害を全く回収できないか、ごく少額の回収にとどまることが多い」とは言い切れず、この辺りはややミスリードであると感じている(ただし二次被害に対する警告という性質上、回収の困難性を強調することはやむを得ないようにも思われる)。

私が昨年6月までに受任したSNS型特殊詐欺事件について現在までの被害回復の程度を具体的に見てみると、①被害額約3億⇒回収額約4000万円、②被害額1800万円⇒全額回収、③被害額約4500万円⇒全額回収、④被害額約4200万円⇒回収額1100万円、⑤被害額4600万円⇒全額回収といった概況である。もちろん被害回復は困難であり、容易な手続きで被害を回復することは不可能というほかないが、実際に相当程度額の被害回復ができた事案も存在している(ただし偶然に左右されるため事件開始時に見通しを立てることは困難である。)。

その為「被害を全く回収できないか、ごく少額の回収にとどまることが多い」という警告によって、過度に委縮してしまう被害者がいないか少し憂慮している(23条照会の前提として回復の困難性を依頼者に説明し、理解した旨の書類を作成し、提出することが求められている。)。

上記回収は、基本的に送金先口座、移転先口座その他犯罪グループが用いる犯罪利用口座から試みることになり、事後の競合が生じるため、できる限り事前に仮差押の手続きを行っておく必要がある。上記事件についてみても併せて数十回の仮差押を行っており、やはり手続面では相当の煩瑣がある(弊所事務局にはその都度、申立書の提出、供託手続き、供託書、目録等の追完、事後の担保取消など相当の負荷がかかっており、迅速な対応に感謝するほかない。)。

  • デリバティブ取引

(1)KOYO証券(令和6年9月25日判決言渡、双方控訴)

株価指数証拠金取引(くりっく株365取引)について、新規委託者保護義務違反及び過当取引の違法性を認め、損害賠償請求を一部認容(過失相殺3割)

本件では、取引回数が多いこと(15か月間に745回)、契約締結時に投資可能資金を300万円と提示していたのに最終的な投資額が2400万円にのぼり、これが申告した預貯金額3000万円の5分の4を占めていること、被告従業員が保有資産額全額について投資可能であると考えていたこと、繰り返し両建が行われていること、(録音媒体により)取引手数料を控除した損益を踏まえた勧誘がされていないこと等が認定されている。
取引回数や取引手数料が増えていること等についてコンプライアンス担当が注意喚起の電話を複数回していたという反論があったが、判決では、証拠提出された録音媒体によれば、現状の取引内容が原告の意向に沿うかどうかを具体的に確認する内容であるとは認められないとして、被告の主張を排斥した。また、顧客から度々取引状況確認書を徴求しているという反論も行われたが、徴求した確認書は取引結果を事後的に提示するにすぎず、注意喚起として十分とは認めがたいと判示して、被告の主張を排斥している。

(2)フジトミ証券(令和6年10月16日和解成立)

商品先物、くりっく株365及びくりっく365取引について、法人・個人(法人代表者)で合計約3307万円の損害が生じた事案。

ほぼ全ての銘柄で両建が行われ、月間回転数61.78回、特定売買比率34.04%(同限月、同枚数両建あり)、手数料化率約411.42%といずれの数値も相当な高率で、手数料稼ぎを目的とした過当取引が問題となる事案であった。

また本件では、当初勧誘時の録音媒体が存在しており、当該録音媒体により説明内容の問題点が浮き彫りとなっていた。

一審尋問前の段階で、合計3300万円の和解が成立した。

  • CO2排出権取引(株式会社ウィズマネジメント 東京地判令和6年5月14日)

CO2排出権取引(証拠金取引、相対差金決済)について、刑事罰をもって禁止される賭博行為であって公序良俗に反しており、市場価格を用いた取引であったとしても許容されず違法性は阻却されないとして、法人、代表者及び従業員に対する原告らの損害賠償請求を全額認容した。

被害者である原告2名(60代男性被害額700万円、50代女性被害額200万円)は、それぞれ従業員から勧誘を受けてウィズマネジメントとの間でCO2排出権取引を行っていたが、令和4年11月以降、警察の取り調べが行われたこと等を理由に、取引の終了を要請され、これに応じた。しかしその後精算金すら返金されなかったため、法律相談を行った。
判決ではCO2排出権取引について、刑事罰をもって禁止される賭博行為であって公序良俗に反しており、従業員はそのことについて当然に認識していたか、仮に認識していなかったとしても少なくとも過失があるとして、被告らによる尋問申請を採用することなく、従業員を含めた全被告に対する請求を認容している。