レセプト債関連会社の破綻・集団訴訟の提起に向けて

 平成28年3月7日追記:本日の訴え提起・被害者らの問合せについては,平成28年3月7日付け本ブログ参照

 いわゆるレセプト債関連会社の破綻に係るアーツ証券ほか関連会社に対する損害賠償請求訴訟について,問い合わせが漸増していることから,平成28年2月26日,従前記事を大幅に差し替える。
 当事務所では,従前から複数名の委任を受けており,3月初旬にも第1次集団訴訟を提起する予定である。被告とするのは関連組織及びその役員ら20名程度に上る予定である(責任原因は不法行為ないし会社法上の責任)。被害者側代理人としては,当事務所の弁護士複数のほか,これまで私が代表を務めた多くの集団訴訟・弁護団で活動をともにしてきた弁護士の参加を得ており,今後五月雨式に寄せられるであろう相談にも適宜対応しつつ,弁護団として集団訴訟を追行していくことになる。被害者らは,来週までに急いで問い合わせをしなければならないなどと言うことはない。今回提訴する被害者らはほぼ昨年から相談をしていた者らであって,第2次提訴までには,時間的余裕を持たせる予定であるし,締切の時期を設けるときにはその旨告知する。今回の報道で焦ったりする必要はない。
 なお,これまで相談を受けてきた中で感じるところがあったので念のために注意を喚起しておきたい。今回のレセプト債に関して日本投資者保護基金などの存在により出資金が返還されるとは考えられない。配当がMRFになっている部分はともかく,出資金は,同基金によって救済される性質のものではない。また,アーツ証券ないしその他関係会社群の破産手続によっても(管財人の先生の尽力によっても),被害の相当部分が回復される可能性は著しく低いものと予測される。被害回復を希求するのであれば,アーツ証券経由の場合には特に,法人ではなく,これに関与した個人(自然人)の責任を追及するべき段階にあることは正しく認識されるべきものと考える。その他の証券会社を経由している被害者においては,証券会社がまずは損害賠償請求の名宛となる。いずれにせよ,被害回復の途を誤ることのないように,被害者一人一人が,投げやりになることなく,自身の問題として(仲介業者などの言に左右されることなく)冷静かつ慎重な判断をすべきことを自覚せねばならない。
 訴状の骨子は,以下のとおりである。
・事案の概要
 本件は,オプティ社,アーツ証券及びその関係者らが,「医療機関から買い取る診療報酬債権を裏付資産とする安全性の高い商品がある」などと称して原告らを含む一般投資家に対して外国法人の発行する診療報酬債権等流動化債券(レセプト)を販売し,計2400名超から計約227億円もの資金を集めたが,当該資金は診療報酬債権の買取りではなくオプティ社その他関連会社の資金等に流用・毀損され,その結果,一般投資家らが元利金の支払いを受けられずに多額の損害を被ったという事案である。
 本件については,証券取引等監視委員会の処分勧告を受け,関東財務局が平成28年1月29日,金商法38条1号が禁じる投資家への虚偽告知等があるとして,アーツ証券の金融商品取引業者としての登録を取り消すなどの行政処分を行っている。
・被害者らが伝えられていた本件レセプト債の仕組み及びリスク
本件レセプト債は,レセプト債の発行を目的として設立された特別目的会社(SPC)を発行会社とするユーロ円債であり,発行会社が保有する診療報酬債権及び介護報酬等(以下「診療報酬債権等」という。)を裏付資産として発行されるものであり(ただし,介護報酬も裏付資産とされていることは,平成27年8月までは投資家に伏せられていた。),償還日は発行日から1年後,利率は年率3%(固定,課税前)である。
 本件レセプト債の裏付資産のうち,まず「診療報酬債権」とは,病院等の医療機関が提供した保険医療サービスについて,当該医療機関が社会保険診療報酬支払基金等に対して有する支払請求権のことであり,「介護報酬等」とは,介護事業者が自ら提供した介護サービスについて市区町村に対して有する介護報酬支払請求権のことである。
 本件レセプト債は診療報酬債権等を「裏付資産」として発行される債券であると伝えられていたが,ここでいう「裏付資産」の意味は,まず「投資家」は,「販売会社」であるアーツ証券を通じて「発行体」からレセプト債を取得することになるから,投資家の資金は投資家から販売会社,発行体へと順次移動する。次に発行体は,その資金を使って,「保険医療機関」等との間で債権譲渡契約を締結し,診療報酬債権等を買い受ける。診療報酬債権等の買取金額は,保険医療機関等が本来受け取れる金額よりも安く設定されており,発行体等はその差額から手数料収入を得る(保険医療機関等が診療サービスを提供してから診療報酬を受領するまでには約2ヶ月かかるため,資金繰りが苦しいなどの理由で早期に資金調達をしたい保険医療機関等にとっては債権譲渡により資金調達を行うメリットがある。)。そして,「発行体」は,債権譲渡契約から約2ヶ月後に,社会保険診療報酬支払基金等から診療報酬等を受け取り,そこから投資家への社債償還及び利払い等を行う流れになる。
 このように,本件レセプト債は,発行体が投資家から集めた資金を使って保険医療機関等から診療報酬債権等を買い取ることを前提としてはじめて成り立つ金融商品であり,診療報酬債権等がレセプト債の「裏付資産」であるというのはその意味である。
 そして,診療報酬債権等は我が国の健康保険制度に根ざしたものであってデフォルトリスクは(ほとんど)なく,円貨建てのため為替変動要因によってその価値は左右されず,診療報酬債権等の買い取り先となる保険医療機関等についてはMIF社等が厳格な審査・監査を行うことから,本件レセプト債は「安全性の高い商品」であると説明された。
 発行体の財務状況については,平成27年8月以降にアーツ証券により作成された勧誘資料には,発行体の貸借対照表の一部が抜粋されて添付されるようになり,当該貸借対照表の「純資産の部合計」欄はマイナス(すなわち赤字)となっていたが,かかる赤字の理由については,勧誘時には全く触れられないか,又は「将来債権を取得するので診療報酬が入るまで一時的に赤字になっているだけで問題はない」などと言われただけであった。
 被害者は,これらを誤信した。
・本件レセプト債発行スキームの実際
 前記のとおり,本件レセプト債は,社債発行により投資家から得た資金を使って発行体が診療報酬債権等を医療機関から取得することを前提としてはじめて成り立つ金融商品であるから,レセプト債の発行金額と,発行体が買い取った診療報酬債権等の残高は,概ね一致しているはずである。ところが,平成27年10月末現在における3ファンド(MRL社,OPM社,MTL社)のレセプト債発行残高は約227億円である一方,診療報酬債権等の買い取り残高はその約1割の約23億円に過ぎなかった。そして,証券取引等監視委員会の調査によれば,このような乖離は,3ファンドがそれぞれレセプト債の発行を開始した初期の段階から(OPM社については平成17年12月期から,MRL社については平成23年4月期から,MTL社については平成24年3月期から)認められた。つまり,3ファンド等は,レセプト債の発行によって調達した投資家資金の大半を,診療報酬債権等の買取りではなく,それ以外の使途に流用していたのである。
 3ファンドが集めた投資家の資金は,以下のとおり,オプティ社及びその関連会社の資金等に流用され,毀損されていた。OPM社は,レセプト債の発行を目的として設立された特別目的会社であり,そうであるならば,その資産は診療報酬債権等(及び債権買取り未了であれば現預金)で占められているはずである。ところが,OPM社は,レセプト債の発行によって投資家から集めた上記約95億円を,オプティ社の管理下にあるQCL社その他関連法人に流出させていた。同じくレセプト債の発行を目的として設立されたMTL社は,オプティ社その他関連会社に少なくとも31億4000万円を流出させていた。また,MTL社は,「未収収益」として,SAL社に5324万0819円,QCL社に1109万5890円,オプティ社に587万3972円をそれぞれ計上しているが,レセプト債の発行のみを目的として設立されたMTL社が,医療機関以外に「未収収益」債権を有していること自体不自然であり,関連会社相互で資金移動をしていたことが推認される。3ファンドの一つであるMRL社も,関連会社からの社債取得名下に上記金額を流出させていた。また,MRL社においても,「未収収益」として,オプティ社,QCL社,SAL社,GC社に相当額を計上しているが,レセプト債の発行を目的とするMRL社がかかる未収収益債権を有していること自体が不自然であり,関連会社相互間の資金移動があったものと推認される。?オプティ社は,本件レセプト債の流動化システムを構築・運営し,その対価として3ファンドから手数料収入を得ていたものであるが,オプティ社は,OPM社,MRL社,QCL社,SAL社,MTL社及びGC社に対して計約38億円もの社債を発行することによって,同金額を自社に吸い上げて流入させている。また,オプティ社は,「投資有価証券」として,GC社の社債及び株式,,QCL社の社債,インテリジェントウィルパワー株式会社の株式(同社代表取締役は被告横山であり,オプティ社関連会社である可能性が高い。)等を取得・保有しているほか,MRL社の100%親会社である一般社団法人メディカルボード(オプティ社関連会社である可能性が高い。),一般社団法人MR対策推進室(オプティ社関連会社である可能性が高い。)にそれぞれ出資し,さらにMIF社に対しては短期貸付けを行うことによって,上記関連法人に対して上記各金額を流出させている。つまり,オプティ社は,自社の社債発行等によって,OPM社等がレセプト債の発行によって得た投資家の資金を吸い上げる一方,これを自社関連法人への出資や貸付金等に流用していたものである。アーツ証券の親会社(アーツ証券株式の54.8%保有)であるGC社についても,オプティ社と同様の資金移動が認められ,関連法人に資金を流出させている。
 本件レセプト債の勧誘資料には一切登場しないQCL社及びSAL社も,資金移動目的で用いられた法人である。QCL社は,MTL社・MRL社・オプティ社・GC社に多額の社債を発行し,関連法人から上記各金額を吸い上げて自社に流入させる一方,オプティ社,GC社及びMIF社から多額の社債を取得して同金額を関連法人に流出させるなどしている。SAL社も,MTL社・MRL社に多額の社債を発行して同金額を吸い上げて流入させる一方,オプティ社・OPM社から多額の社債を取得して同金額を関連法人に流出させている。
 以上のとおり,3ファンドが投資家から集めた資金は,医療機関からの診療報酬債権等の買い取りではなく,オプティ社その他関連会社の資金に流用され,毀損されていった。
・内容虚偽の決算書の作成
 3ファンドにおいては,レセプト債の発行開始当初から,投資家の資金はオプティ社及びその関連会社の資金等に流用され毀損されていったが,かかる資金流用が始まったのと同時期に,発行体3ファンドにおいては,水増しされた診療報酬債権等残高が記された内容虚偽の決算書が作成されていた(ただし,かかる決算書は投資家には開示されず,レセプト債を販売する他の証券会社に対して送付されていた。)。3ファンドの会計事務管理を行っていた新宿会計及び青山会計は,それだけでなく,レセプト債発行体との間の管理契約書(ADMINISTRATION AGREEMENT)に基づき,?発行体の東京支店の設立,?発行体の日本における代表者の提供,?発行体の指示のもとで診療報酬債権の買取り契約を締結し,診療報酬債権の取得及び支払い状況の監視等をも行うこととされていた(なお,被告新宿会計は3ファンドすべてとの間で,被告青山会計はMTL社との間でかかる契約を締結していたようである。また,アーツ証券の説明によると,被告青山会計は,平成26年11月末にMTL社の担当を外れて被告新宿会計が引き継いだ模様である。)。
・レセプト債の新規発行を行わなければ元利金の支払いは極めて困難であったこと
前記の通り,レセプト債の発行開始当初から,診療報酬債権等の買い取り残高は,レセプト債の発行残高を大きく下回る状況にあったため,次々に訪れる既発行レセプト債の償還及び利払い(及び本件関連法人に対する業務委託報酬等の支払い)を3ファンドが継続的に行うのは極めて困難な状況にあった。そこで,本件関連法人は,レセプト債の新規発行を絶えず行うといういわば自転車操業によって,既発行債券の元利金の支払いを行っていたものである。
・アーツ証券が発行体の破綻等を知りながらそれを秘して販売を継続したこと
 アーツ証券は,遅くとも平成25年10月までには,児泉社長から3ファンドの財務状況について相談を受け,レセプト債発行残高と診療報酬債権等買取り額との乖離や,関連会社への流用の事実等を認識した。しかし,レセプト債を新たに発行し続けなければ破綻必至の状況であったことから,アーツ証券は,診療報酬債権等の買い取り実績がほとんどないことや,発行体が恒常的な債務不履行状態にあることをあえて隠匿し,レセプト債は「安全性の高い商品」であるという虚偽の勧誘を継続することにし,もって被害を拡大させた。平成27年11月8日に開かれた説明会においても,アーツ証券幹部らは,レセプト債の組成上の違法性を認識したのは同年10月30日にオプティ社から連絡を受けたからであるなどと虚偽を述べ,もって顧客投資家らを欺き続けた。
・違法性
 前記のとおり,オプティ社が運営する3ファンドは,レセプト債の新規発行を行わなければ,次々に訪れる既発行レセプト債の元利金支払いができない財務状況にあり,レセプト債の新規発行により調達された資金は,その大半が,診療報酬債権等の取得ではなく,オプティ社及びその関連会社の資金に流用され,毀損されていった。すなわち,オプティ社,3ファンドを含む本件関連法人は,少なくとも原告らがレセプト債を購入する時点において,それが「診療報酬債権等を取得し,それらを裏付資産として発行される債券」でも「安全性の高い商品」でもなかったにもかかわらず,販売会社であるアーツ証券等をして,前記のとおり本件レセプト債が「診療報酬債権等を裏付資産とする」もので「安全性の高い商品」であるなどという虚偽の説明資料を前提とした取得勧誘をさせ,もって原告らをしてその旨誤信させ,本件レセプト債の取得代金名下に多額の金員を支払わせた。かかる本件関連法人等による本件レセプト債の組成・運用・販売行為は,強い違法性を帯びるものである。