判決報告:スピーシー事件(第一次訴訟:大阪訴訟)

スピーシー事件の大阪訴訟(第一次訴訟)において,3月28日,大阪地裁で判決がありましたので,ご報告します。

【事案の概要】
業者:スピーシー,シード外
当事者:原告43名,被告46名
裁判所:大阪地方裁判所
 
 イギリスのブックメーカーのスポーツブックを利用した裁定取引(「スポーツブックアービトラージ投資」)を行うことにより,「毎月数%の高い利益を恒常的に得られる」と喧伝して出資を募ったが,ある時点で取引が破綻したことが告げられ,出資金が返金されないという事案。
 本件は,代理店と称される勧誘者が幾重にも連なり,その代理店群が預かり金から数%という形で金銭を得ていくという報酬制度(以下,「本件報酬制度」)がありました。また,契約形態は,出資金については金銭消費貸借契約,配当についてはコンサルティング業務委託契約を締結するという体裁が取られていました。
 ①スポーツブック投資商法自体の違法性,②被告らの責任が本件の争点となりました 
 特に,①の関係では,スポーツブックアービトラージ投資は理論上成り立つのか,
 ②の関係では,特に代理店群からは,「自分たちも本件投資を真っ当な投資と信用したのであり,原告らと同様に被害者である」という反論がなされました。

 ①の点について
 判決は,本件商法は,出資額元本を保証した上で,原告らに対しては出資額の概ね3%から5%を月々の配当として支払い,さらに本件紹介料制度により上位者に下位者の出資額に対する一定割合の紹介料を支払うというものであり,さらに,事業を継続するための費用が発生することも考慮すれば,「本件商法において出資に約束された配当及び紹介料を継続的に支払い続けることはもともと不可能であったと認められる。」「それにもかかわらず,出資者に対して合意した配当及び紹介料を支払い続けようとすれば,その後に出資した者の出資金から支出せざるを得ない。」「出資金を配当等に流用していれば,いつかは配当等の支払いに窮し,破綻することは不可避であり,破綻した場合には,配当率が相対的に低い下位の出資者や出資時期が遅い出資者に対して,約束した配当等が支払うことができなくなるだけではなく,出資金相当額を回収することができないという元本既存の損害を与えることになる。このように,本件商法はいずれかの出資者に対して不可避的に損害を与えるものであったといえる」とし,出資者に対して本件商法へ出資させる行為は不法行為法上違法なものであるとしました。
 これは当方の主張を全面的に採用したものといえます。
 
次に,②の点について
 判決は,概ね被告らを2つのグループに分け,
1 首謀者グループ
2 1以外の本件商法の直接の勧誘を行った者及びその上位者
 
 1については,同被告らについては,集めた資金のうちどの程度をスポーツブック投資で運用し,その運用実績がどのようなものであるかを熟知する立場にあり,本件商法に出資すれば確実に高率の配当が得られるという勧誘が実態と異なるものであることを認識していたなどとし,一部被告らを除き,不法行為もしくは会社法の責任に基づく損害賠償責任を負うとしました。
 
 2については,まず,(直接の)勧誘者は,被勧誘者が本件商法に出資した場合,本件紹介料制度を通じて経済的利益を取得するということを考慮すると,勧誘者は,第三者に対して本件商法の出資を勧誘し,出資の意思決定をさせるにあたっては,本件商法の安全性ついて合理的な根拠を調査,検討すべき義務を負っているとし,調査,検討を行わずに勧誘を行った場合には,損害賠償責任を負うとしました。
 一方で,出資者がもともと出資する意思を有し,(直接の)勧誘者に質問をしたにすぎないと評価される場合は,その勧誘者は責任を負わないとしました。

 さらに,(直接の勧誘者の)上位者についても,本件商法は本件紹介料制度を通じて,上位者から勧誘を受けた下位者が更に第三者に対する勧誘を行うことにより,その後連鎖的に出資の勧誘が行われることを予定するものであるから,上位者は,下位者の勧誘によって本件商法に出資する意思を有するに至った第三者が危険な取引を行って損害を被らないよう,本件商法の安全性について十分な調査,検討を尽くし,本件商法の安全性の確認が取れない場合には,下位者の勧誘を止めさせるなどの適切な措置を執るべき義務を負っているとしました。
 一方で,下位者が個人的な好意から家族や友人に紹介したに過ぎない場合には,上記のような予定された連鎖的な出資の勧誘とはいえず,上位者は責任を負わないとしました。

 一方で,上記2グループの被告らとの関係で一定の過失相殺がされてしまったこと,過失相殺→損益相殺の順序で損害額を算定されたこと等,いくつかの残念な点もありました。
 しかし,マルチ様のファンド商法の被害は多くありますが,東京地裁の判決に続き,大阪地裁でも,最上位から直接の勧誘者に至るまで責任を認められた点において,意義のある判決であると思います。 

 以上,ご報告致します。