平成28年8月19日,大阪高等裁判所で,第一商品株式会社を相手方とする事件について,訴訟上の和解が成立しましたので,その概要について少し述べます。
原審の大阪地裁では,両建取引の危険性について説明義務違反を認めたものの,損害の発生は主として顧客側の判断に起因することを理由に,8割の過失相殺が行われていました。さらに,相手方からも差損金請求が行われていたことから,結果的には顧客側が追加で金銭を相手方に支払わなければならないという厳しい判決内容でした。
被害者の方は,原審判決を不服として,当職らに対し控訴審から訴訟手続きを委任しました。
原判決では,顧客がモバイルサービスにより金の値動きを確認していたことを理由に,自分の判断で商品先物取引をしていたと認定し,これを理由に大幅な過失相殺が行われました。
しかし,取引について全く知識・経験がない顧客が,取引についての不安や恐怖心から,モバイルサービスに頻繁にアクセスすることはよくあり,このようなアクセスをしていたからといって,必ずしも自らの判断で取引を行っていたとはいえません。
そこで,控訴審を受任してから,顧客がモバイルサービスにアクセスした時間を具体的に精査してみると,顧客が注文の直前にモバイルサービスを閲覧して値動きを確認したことは一度としてなく,むしろ注文の直後に後追いで値段を確認しているに過ぎないことがわかりました。
値動きを確認して自らの意思で注文するのであれば,必ず注文の直前に値動きを確認しているはずにもかかわらず,実際には顧客は一度もそのような行動を行っていないのです。
そこで,控訴理由書ではこの点について(他の争点も多岐にわたりますがここでは省略します),具体的な事実関係と証拠を摘示して主張を追加し,原判決において8割という大幅な過失相殺の柱としていた「顧客が自らの判断で取引をしていた」という事実の誤りを指摘しました。
控訴審裁判体が当方の上記主張・立証等について十分な理解を示したことなどから,原判決の過失相殺の割合を概ね逆転した,2割程度の過失相殺を前提とした金額での和解案が成立することになりました。