破産と債権回収

破産手続というものがあります。

一般的には,消費者金融等で大きな借金を抱えてしまった人が,その借金を整理し,免責を受けて借金から解放されるための手続として知られています。

自己破産という言葉にはなじみがあることでしょう。

しかし,破産とは本来,免責のためだけにあるものではありません。

むしろ,財産状況を整理し,債務者の財産を債権者に平等に分配し債権者を満足させるための手続です。

そのため,破産手続には「否認」という制度があります。

破産手続きにおいては債務者の財産は債権者に平等に分配されるべきものですから,一部の債権者だけが優先的に取得する(これを偏頗弁済といいます。)ことはできません。

この偏頗弁済をしてしまうと,破産手続において弁済行為が取り消され,受け取った財産を返す義務が生じます。

財産を取り戻し,改めて平等な分配を実現しようとするのです。

非常に大ざっぱにいうと,これが否認という制度です。

この否認の対象となる行為には,強制執行による回収も含まれます(破産法165条)。

せっかく強制執行によって財産を回収したとしても,その強制執行が否認権行使の要件を満たし否認されてしまえば,その財産を返す羽目になりうるのです。

否認の対象となる執行の1パターンとして,支払い停止(支払い不能を外部的に表示すること)後の強制執行があります。

支払い不能を外部的に表示とは,例えば,「私は被害者らへ損害賠償金を支払う能力がないので破産を予定しています。」と宣言し,被害者にその旨通知することです。

その通知後に強制執行をしたとしても,否認されてしまい,強制執行で回収した資金を返す羽目になり得ます。

ではそのような通知が来たら,どうせ無駄だからと,財産調査や強制執行を止めてしまうべきでしょうか。

それは違います。

詐欺的商法被害事案では,悪者が破産を予定している,という通知を被害者に出すことはしばしばあります。

しかし,実際には破産の予告をしておきながら1年,2年と放置することが見られます。このような予告は,単なる事態の鎮静化・時間稼ぎのための方便に過ぎないのです。被害者に債権回収をあきらめさせ,逃げおおせるための手段としての予告です。

これを過大評価し,考えなしに立ち止まっていては被害回復はおぼつきません。

もちろん,強制執行をしたのち実際に悪者が破産を申し立てることはあります。

その場合,せっかくの執行が否認の対象になることもあるでしょう。

しかし,破産の予告を恐れず調査・執行をした結果,財産を隠しきられる前に破産に進ませることに成功しているかもしれません。

調査の結果,財産状況が明らかになり,支払い停止時には実は支払い不能ではなかったということが分かり,否認を免れることもあり得ます。

破産手続中に財産を調査する役割を担う破産管財人もピンキリですから,やる気のない管財人にあたってしまうと,我々が調査していれば見つかったであろう財産を見逃してしまうことも考えられるのであり,調査・執行は無駄になったわけではありません。

したがって,債権回収のためには,否認のリスクを頭に入れつつも,及び腰になってはいけません。

否認されると調査費用・執行費用が債権者の負担にはなりますが,その辺りは共益費にならないか,検討してみる余地はあるようにも思います。

 

とまぁ,とりとめのない記事になってしまいましたが,債権回収には破産というのは大きく関わってきますので,その関わりの一態様のご紹介として。