検証物提示命令については,文書提出命令における義務の除外事由を定めた規定が準用されていないため(民事訴訟法232条,220条),証拠保全手続きにおいて検証物提示命令を出す場合には,文書提出義務の制限(民事訴訟法220条)を潜脱するおそれが生じるのではないかという問題があります。
そこで,裁判所は文書提出義務が課せられない文書については,検証物提示命令を発令しないという対応をしています。
それでは,検証物提示命令の対象となる文書であるか(ここでは,文書提出義務の制限が課せられる文書であるか否か)について,対象となる文書を検分しなければ判断できない場合,どのような手続きを取ることができるでしょうか。
文書提出命令についてはインカメラ手続(223条6項)が定められており,検証物提示命令においても,同条文が準用されています(232条1項)。
また,223条6項では,「220条第4号イからニまでに掲げる文書のいずれかに該当するかどうかの判断をするために必要があると認めるとき」とされていますが,検証物提示命令については一般的には同部分を「検証物提示を拒む正当な理由(196条または197条の証言拒絶事由)があるかどうかの判断をするため必要があると認めるとき」と読み替えることにしているようです(コンメンタール民事訴訟法?548頁)。
証拠保全手続では,文書提出義務が課せられない除外文書については,検証物提示命令を発令しないという取り扱いをする以上,事実上除外文書であることは検証物提示を拒む正当な理由にあたるようにも思われます。
そこで,証拠保全手続きにおける検証物提示命令の発令にあたり,裁判所は除外文書にあたるか否かを判断するため,インカメラ手続により文書を提示させることができることになります。
先日申立をおこなった証拠保全手続きでは,裁判所が実際にインカメラ手続を行った後に,検証物提示命令を発令するといった事例に接しましたが,裁判所による手続きは上記の理由から結論において妥当であると思います。