先日,固定電話回線のレンタル業者及びその従業員に対する証人尋問及び本人尋問が東京地裁で行われました。
本件は,昨今被害が拡大している社債販売商法(販売会社らが,「Aという会社の社債を購入してくれれば3倍から5倍で買い取る」等と虚偽の事実を申し向け,客観的価値がない社債を高額で購入させるという詐欺的商法)の事案でしたが,今回特に問題となったのは,固定電話回線のレンタル業者(仮に「B社」とします。)が,NTTとの間で固定電話回線の使用契約を締結し,当該固定電話回線を第三者(仮に「X」とします。)にレンタルしたところ,当該固定電話回線がX(もしくはXから提供を受けた第三者)により詐欺的商法に利用されたという際の,当該固定電話回線をレンタルした業者及びその従業員の不法行為(の幇助)責任です。
また本件の特徴は,第三者にレンタルするための固定電話回線のNTTとの使用契約の締結を,第三者にレンタルする当事者であるB社自身がするのではなく,B社の従業員(仮に「C」とします。)に行わせていたということです。
簡単にいえば,以下のような関係です。
NTT→→→→→→→→ C(被用者)
固定電話回線
使用契約締結 B社(使用者)→→→→→→X→→悪用
固定電話回線
レンタル
振り込め詐欺や未公開株商法,社債販売商法で,通信ツール(携帯電話,固定電話回線)が不可欠の犯罪ツールであることは公知の事実ですが,詐欺の実行行為者であるXらが,そのような犯罪に不可欠のツールである固定電話回線について,NTTと自ら固定電話回線の使用契約を締結しないのは,NTTによる厳格な本人確認手続を潜脱して,自らへの追及・捜査を困難にするためであると考えられます。
そして,B社は,固定電話回線のレンタルを業として行う者ですから,振り込め詐欺や未公開株商法,社債販売商法で,固定電話回線が不可欠の犯罪ツールとして使用していること当然認識しているはずですから,固定電話回線が悪用されないよう高度の注意義務,具体的にはXについて厳格な本人確認等が求められると考えられます。
本件の場合,Xがレンタル契約書の使用目的欄に「社債の募集」と書いてあったという事案でもあり(「社債の募集」に電話回線が必要ってどういうこと!?),B社はそれこそより厳格な本人確認等が求められていたといえます。
本人確認の態様としては,(1)契約者が来店する場合と(対面取引)と(2)来店しない場合(非対面取引)が考えられ,(1)の場合は本人確認書類の原本の提示を求め,同書類の写しの保管でよいと思いますが,(2)の場合,本人確認書類の写しを契約者に郵送してもらうことになるのでしょうが,その際,契約者と本人確認書類上の人物が同一であることを,どのように確認すべきかが問題となります。
この際,携帯音声通信事業者による契約者本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(「携帯電話不正利用法」)により求められる確認方法が参考になります。同法は,主に携帯電話を第三者に貸与する際を規律する法律ではありますが,固定電話回線のレンタルの際にもその趣旨は妥当すると考えます。同法は,非対面取引の際には,(a)口座振替又はクレジットカードを用いた方法により支払を行うことを約し,さらに本人確認書類に記載された住所に契約確認の文書を転送不要郵便等(書留郵便等)で送付する,もしくは,(b)本人確認書類に記載された住所に対して契約確認の文書を本人限定受取郵便等により送付することが必要である等として,契約者が本人確認書類に記載された者と同一であることを慎重に確認するべきとしています。
本件は,非対面取引の事案で,免許証の写しの提出は受けているが,上記(a)(b)のいずれも履践していませんでした。Xの固定電話回線の使用目的が「社債の募集」であるのにもかかわらず…。
尋問では杜撰な経営内容が次々と明らかになりました。
「B社として常時何回線保有しているのかも分からない。」
「レンタルするための回線は忙しいときには従業員にNTTと契約させていた。」
その従業員は「自分がNTTと何回線契約しているのか知らない。」
「『社債の募集』についてもおかしいとは思わなかった(「社債の募集」とは株式発行の場面だと思っていたそうです(意味不明)。)。」。
振り込め詐欺や未公開株商法,社債販売商法において,不可欠の犯罪ツールである通信ツール,これらを不用意に詐欺の実行部隊に提供した者らの責任が正当に評価されることを願ってやみません。