本日言渡がなされた判決は,これはまた,すばらしいものであった。一連のアーバンコーポレイションの査定異議訴訟事件の判決群に一つを加えるものだが,極めて強い説得力がある。
判決は,満期転換社債型新株予約権付社債の発行に当たって払込金の全額をスワップ契約の当初支払に充てること等を開示しなかった臨時報告書等に虚偽記載等があるとし,虚偽記載等の公表と同日に行われた民事再生手続開始決定の申立ては虚偽記載等の公表に伴って必然的にとらなければならない対応であって株価の下落は民事再生手続開始の申立てがされたことによって生じたものと認めることはできず,金商法21条の2第4項,5項所定の「当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情によって生じたこと」の証明はないとして提出者の損害賠償請求責任が全部肯定された事例であって,この結論は,東京高判平成22年11月24日(セレクト38巻133頁,金法1916号97頁,判時2103号24頁,判タ1351号217頁)でも採られているところであるが,本判決には,より詳細な判断が付され,より強い説得力がある。
判示の概要は,1,アーバン社は本件スワップ契約についての情報を開示しなかったからこそ,本件CBを発行することができ,市場を欺いて延命することが可能となったもので,そうでなければ,アーバン社は本件CB発行を発表した当時の前後ころにおいて,倒産処理を開始せざるを得ないような事態になっていた可能性が高いものと推認される,2,アーバン社は公表日以降の下落は民事再生手続開始の申立に起因するものであって虚偽記載とは無関係な下落であると主張するが,民事再生の申立は虚偽記載の公表により,隠蔽しようとしていたアーバン社の「資金調達能力の減退ないし欠如」が顕在することとなるため,経営を続けることが不可能であると判断したからであって,民事再生の申立の原因はまさに本件虚偽記載が隠蔽しようとしていた事情なのであるから,虚偽記載と民事再生の申立は一体のものと評価すべきである,3,民事再生の申立の原因はまさに本件虚偽記載が隠蔽しようとしていた事情なのであるから,虚偽記載と民事再生の申立は一体のものと評価すべきである。これを別個のものと考え,それぞれ別個に株価下落の原因を究明するなどというアーバン社の論理は,経済の実態を見ないものであって採用する余地がない,4,仮にアーバン社の見解を採用すれば,民事再生の申立と虚偽記載の公表を一致させてしまえば容易に損害賠償を免れさせることが可能となり,金商法の趣旨を没却する,5,本件のように虚偽記載等が倒産の原因となる事情を隠蔽するものであった場合には,虚偽記載等と無関係な倒産処理手続開始の申立のみによって生じた損害があったとするためには,これを主張する者において,「単独で虚偽記載等の公表が行われ,倒産処理手続の申立てがなかった場合には,当該株価の下落は,金融商品取引法21条2項の2第2項に基づく推定損害額よりも少なかった」ということの蓋然性を主張立証する必要があるというべきであるところ,そのような主張立証はない,6,公表前の株価下落も,ひとりBNPパリバのみがアーバン社の資金調達方法のリスクに関する情報を把握し,この情報を一般投資家が知り得ないことを奇貨として,アーバン社の株式を売却していたものと推認され,これがアーバン社の株価下落に影響していた可能性を否定することはできず,虚偽記載とは無関係の経済的要因による下落であるということはできない,などとというものであり,特に,3,4は,倒産手続を併用することによって虚偽記載についての金商法の賠償責任を軽減させ,あるいは免れようとすることを許さない,結論としても極めて妥当なものであると評価している。
関連事件や同種事件に好ましい影響が及ぼされることを期待したい。