少し前のことになりますが,買取仮装型未公開株被害事案で,被害者(原告)との間で作成された公正証書に基づいてなされた強制執行(預金債権)に対して不当執行であるとして提訴していた請求異議事件について,第三者詐欺(民法96条2項)の成立を認め請求異議を認容する判決を得ましたので,その概要をご報告したいと思います。
【関係者】
原 告:70代男性
被 告:Y株式会社(未公開株発行会社)
訴 外(関係者):Z証券(買取仮装業者。実体なし)
原告と同様のY社の被害者3名(以下「Aら」と表記)
Z´証券(上記Aらに対して買取仮装した業者。実体なし)
【事案の概要】
いわゆる買取仮装型劇場型未公開株詐欺事案で,発行会社が被害者との間で作成した執行受諾文言付公正証書に基づき,強制執行(預金債権に対する差押え)を行ってきた事案。判決で裁判所は,買取仮装業者から原告に対する詐欺を認め,買取仮装業者を第三者とし,発行会社を悪意とする第三者詐欺(民法96条2項)に基づく取消を認め,請求異議(上記公正証書の執行力の排除)を認めた。なおY控訴,現在控訴審係属中。
【判決の内容】
原告がZ証券(買取仮装業者)に欺罔されていたことを認定した上で,被告が原告らからの電話や書面の連絡のみで1000万円以上もの多額の株式の買付に応じる積極的な姿勢を示していること,(原告やAら合わせただけでも)発行済み株式の約4割を何ら縁故も面識もない70歳以上の高齢者に,被告株式取得の理由や経緯等質問もせず取得させようとしていること,被告が原告,Aら以外の相当数の者との間でも事案が類似する紛争を抱えていることなどの事実を認定し,「被告は,原告が株式の換金性その他,投資としての重要事項に関し,Z証券,Z´証券その他の者の詐欺によって,錯誤に陥っている可能性を認識しつつも,強引にでも原告に株式買付金を支払わせて,自己の自由となる資金を確保するため,原告が錯誤によって意思表示することを容認,歓迎し,何ら原告の錯誤を是正することなく,かえって本件契約の締結や株券の交付で原告の誤信を強め,後日,原告が錯誤に気付いて,株式買取金を任意に支払おうとしなくなることを見越して,本件執行証書の作成等の措置も講じており,Z証券による詐欺を容易にさせる行為をしており,被告には悪意があったと認めるのが相当」として,「原告が被告に対してZ証券の詐欺を理由として本件契約の締結及び本件執行証書(公正証書)作成における意思表示を取り消すことができる」とした。
本件はすでに未公開株・社債まがい被害に遭い,ほとんどの財産を失った高齢者の財産を最後の最後までむしりとろうとする,極めて悪質な事案です。
事務所では,多くの未公開株・社債まがい被害事案を扱っていますが,中でも本件は極めて忌まわしい事件の一つです。
控訴審でも正当な判断が下されるよう,努力していきます。