先物被害事件で、統合失調症でありかつ金銭的にも困窮していた原告(現在50代の女性)について
適合性原則が問題になった事案で(相手方カネツ商事及びカネツFX)、先日、全部認容の判決を得ましたので,この場を借りて報告したいと思います。
原告:50代女性
取引期間:平成12年6月から平成21年10月(FXは平成21年2月から平成21年5月)
統合失調症による入院期間:平成20年6月から断続的に3回ほど
主な争点は適合性原則違反の有無でした。
腐心した点としては、期間が上記のとおり古いものであり、取引開始当時の原告の状況を知る者は一人息子(H12年当時大学1年生で一人暮らし、原告と別居)のみで、初回の入院や障害者手帳の発行なども平成20年以降であり、取引開始時期の原告の精神状況を示す証拠が極めて少なかったという点でした。
この点に関する主な証拠は、この息子さんの陳述と、精神科医の意見書(現在の状況から見て、平成12年当時原告は統合失調症を発症していた蓋然性が高く先物取引を行う能力を有していなかったとするもの)でした(もちろん、障害者福祉手帳、平成20年6月からの入院記録やなども出していますが)。
そして、精神障害に加え、この当時営んでいた業務においてもお客さんが極めて少なくなり、ほぼ廃業状態であって、そのほかに収入もなく経済的にも困窮していたことなども主張・立証(預金残高、年金記録、借り入れの記録など)し、本件以外にさしたる投機的取引経験もなかったことから、これらを総合して適合性なし、と主張しました。
本判決の適合性原則違反についての言及は以下のとおりです。
「国民年金保険料の納付状況や母子寡婦福祉資金貸付制度の利用状況や原告が経営する●●の状況等に照らせば、本件各取引時、原告は、経済的に相当困窮していたものと認められ、本件各取引の内容は、原告の経済的な実情に反した、明らかに過大な危険を伴う取引であったといえる。
また、原告の統合失調症による入院(H20年6月?)、それ以前の原告の状況(H10年ころから精神変調、近隣トラブル等、H13年ころから一日中布団をかぶって絶叫するなど),及び医師作成の意見書(H23年7月付)によれば、本件各取引時、原告の判断能力は統合失調症の影響などにより、相当程度低下していたものと考えられ、本件各取引の危険性を理解し、適切な判断を下すことは、極めて困難であったといえる。
これに加えて、?本件各取引の開始当時、原告には、原告の父に勧められて行った株式の現物の経験が多少あったに過ぎなかったこと、?(原告の統合失調症による入院及びそれ以前の原告の状況)によれば、被告カネツ商事の従業員らは、原告の判断能力が相当程度低下していたことや原告が経済的に相当困窮していたこと等について、かなりの程度認識していたものと推認できること等の事情も併せ考慮すれば、被告カネツ商事の従業員らによる原告に対する本件各取引の勧誘行為は、適合性の原則から著しく逸脱したものと言わざるを得ない。
したがって、被告カネツ商事の従業員らによる本件各取引の勧誘行為は、全体として原告に対する適合性原則違反の不法行為を構成する。」
また、過失相殺については、
「原告の統合失調症による入院及びそれ以前の原告の状況に照らせば、本件各取引当時の原告の判断能力は、相当程度低下していたものと言わざるを得ず、そうだとすれば、本件各取引による損害の発生及び拡大について原告に落ち度があったというのは困難である。
他方で、被告カネツ商事の従業員らは、原告の「家が山小屋みたいで、ちょっと汚い」という状況や、原告が税金関係の手続きについて基本的な理解がない発言をしていること、原告が被告らに申告した原告の資産額について整合性がないことなど、不自然な点を認識していながら、本件各取引の勧誘等を継続したものであり、被告カネツ商事の従業員らの行為の悪質性は顕著であるというべきである。
以上によれば、本件において過失相殺をするのは相当ではない。」
との判示を得ました。
原告が統合失調症で入院している際も、入院先にまで外務員が電話して取引を行わせていたという、極めて厭わしい事情もありました。
控訴審も覚悟しておりますが、まずはホッとしています。