判決報告(過失の幇助)

 先月末,ある事件の判決(東京地判平成26年1月28日)がありました。
 もう3週間以上前に出ていたものですが,報告するタイミングを失していました(弊所ウェブページには掲載済みです。)。
 控訴もなく,既に確定しているので,これを機にご報告します。

1 事案
 本件は,タラバガニを韓国から安く仕入れ,それを売ることで高い利益を出し,月10%の配当を出すなどという投資(以下,「カニ投資」といいます。)への出資を勧誘され,500万円を騙取されたというありがちな投資詐欺商法被害事案です。
 当方はカニ投資を最初に原告に勧誘(紹介)してきた者(以下,「被告A」といいます。),出資先となった会社,その会社の代表取締役であり最終 的に原告を勧誘した者(以下,「被告B」といいます。),その他役員を相手に共同不法行為責任等に基づく損害賠償請求をしました。
 それに対し,被告Aは,自分は会社と原告を引き合わせただけである,ただのメッセンジャーであり,詐欺なんて知らないし,会社との共謀などして いない,などと主張してきました。

2 判示
 被告Bについては,少なくとも過失による不法行為責任が認められる,としました。
 そして,被告Aについては,原告にカニ投資の概要を説明したこと,被告Bと会う手配をしたこと,自らも連帯保証人になっても構わないなどと言ったこと,土地を担保に提供しかつ連帯保証もするという人物の存在を示したことなど,被告Aの加功を指摘したうえ,「そうすると,被告Aの主張通り,被告Aにおいて,被告Bと共謀して故意に原告の金員を騙取したものではないとしても,少なくとも,被告 Bによる本件取引が確実なものではないにもかかわらず,原告が損失を被らないかのような言辞を用いて,被告Bが原告から500万円の出資を受けることを容易にさせたものと認められ,過失によって不法行為者である被告Bを幇助したものというべきである」として719条の共同不法行為責任を認めました。

3 コメント
 利殖商法等の関与者が「自分は投資を紹介しただけ。」「自分も被害者。」などと主張して責任を争ってくることは良くあります。
 その意味するところは様々で,例えば金融商品の販売として見ると,勧誘者ではないから説明義務を負わないこと,詐欺商法として見ると,加担してないこと・故意過失がないことといった法的主張になってきます。
 今回は「紹介」したカニ投資があからさまに詐欺商法だったので,もっぱら後者が問題になりました。
 被告Aがした「紹介しただけだ」などと言う主張が安易にまかり通るようになれば,詐欺業者はみな架空の別法人を作り,そこが形式上は投資商品の販売・勧誘を担当することとし,実際の勧誘者は「自分たちはその商品の販売者である会社の外部の人間であって単に紹介したに過ぎない」などと主張できるようなスキームを作出するでしょう(既に多いですが。)。
 「紹介」と一言にいっても,その内実たる具体的事情は様々です。それを十分に検討し,不法行為に基づく損害賠償請求権を基礎づけるものかどうかを具体的に見る必要があります。確かに「紹介」の意味するところが,被害者と詐欺業者がを純粋に引き合わせただけ,というのであれば,責任を否定する余地はあるかもしれません。しかし,多くの場合,「紹介」者は詐欺商品の中身をある程度知っており,被害者に対し「年〇〇%もの利益が出る」などと言って被害者の投資意欲を煽っています。そうやって他者を被害に引き込んだ人物が責任を安易に免れてよいはずがありません。
 「紹介」者等の責任を認めた裁判例は数多いでしょうが,そのための一つの道筋として,今まで余り裁判例の見当たらない「少なくとも過失によって幇助した」というロジックを用いた本判決にはそれなりの意味があると考えます。