被告の最後の住所地が記載されていない債務名義による強制執行(3)

 本案裁判所が判決に記載された被告と後に住所地が判明した被告の同一性を判断してこれが肯定される場合には新たに判明した住所地を付記した執行文を執行文付与の申立てを受けて付与することも,簡便である。このような執行文の付与には明文の根拠がないように見えるが,民事執行法23条1項1号の債務者に対する強制執行のために必要なものとして許容されるものと考えるべきである。あるいは,民事執行法23条1項3号の者に対する交替執行文の付与が民事執行法27条2項の場合に許される趣旨が,債権者に無用かつ過重な負担を負わせないよう債権者が承継人等に対して給付の訴えを提起しなくても交替執行文の付与を受ければ足りるものとしたところにあることからすれば,当事者の「交替」がなくても,従前の債務名義に記載された債務者の表示と執行文の付与を求める債務者の表示が異なっており,その同一性が認められる場合には,これら法条を準用ないし類推適用して,(その同一性が明らかになるような)執行文を付与することによって強制執行の名宛人たるべきことを公証することが許されるべきであると考えられる。しかしながら,公示送達による送達を経て被告の最後の住所地が不明である判決がなされた場合には,やはり,被告の手続保障に欠けるきらいがあるといわざるをえない(民事執行法32条3項,同条4項)。
 本案裁判所が判決に記載された被告と後に住所地が判明した被告の同一性を判断してこれが肯定される場合には新たに判明した住所地を付記した執行文を付与するが,その手続を民事執行法33条の執行文付与の訴えによってすることを認めることには,上記と同様に明文の根拠がないように思われる。しかし,上記のとおり,このような場合に,後に判明した住所地を執行文に付記することは,民事執行法23条1項1号の債務者に対する強制執行のために必要なものとして許容されるものと考えるべきであり,あるいは,民事執行法23条1項3号の者に対する交替執行文の付与が民事執行法27条2項の場合に許される趣旨が,債権者に無用かつ過重な負担を負わせないよう債権者が承継人等に対して給付の訴えを提起しなくても交替執行文の付与を受ければ足りるものとしたところにあることからすれば,当事者の「交替」がなくても,従前の債務名義に記載された債務者の表示と執行文の付与を求める債務者の表示が異なっており,その同一性が認められる場合には,これら法条を準用ないし類推適用して,(その同一性が明らかになるような)執行文を付与することによって強制執行の名宛人たるべきことを公証することが許されるべきであると考えられる。そして,民事執行法33条の執行文付与の訴えは,民事執行法27条2項に規定する文書の提出をすることができないときにすることができるものとされているところ,上記の趣旨に照らし,当事者の「交替」がなくても,従前の債務名義に記載された債務者の表示と執行文の付与を求める債務者の表示が異なっており,その同一性が認められる場合には,これら法条を準用ないし類推適用して,(その同一性が明らかになるような)執行文の付与を求める訴えが許容されるべきである。東京高判平成21年12月25日判タ1329号263頁の解説が,本件と同様に最後の住民票上の住所が明らかでないまま公示送達による送達を経て判決された判決の執行方法について,交替執行文の付与を得る方法を挙げているのは,このような理解に基づくものと推測される。しかし,手続法について準用や類推適用といった解釈手法がどこまで許されるべきかという問題に直面することになろう。(続く)(荒井哲朗)

 追記:なお,この点については平成23年11月21日に東京地裁で興味深い判決を得ている。

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