昨日新聞報道もされ,ニュースアクセスランキングの1位にもなるような関心を集めたようですのでご存じの方もおられるかも知れませんが,昨日,ソフトバンクモバイルに対して訴えを提起しました。ソフトバンクモバイルが,裁判所の調査嘱託に回答する義務があることの確認を求めるという,少し風変わりなものです。
原告は,東京都在住の昭和3年生まれ(現在82歳)の女性であり,今年3月,画用紙のような出資券を交付する,明らかな詐欺商法に,「配当が良い。」,「間違いない。」,「絶対損はない。」等と執拗に言い募られて騙されてしまい,825万円の損害を被り,業者には連絡もつかない状況となったことから6月に当職に依頼をし,7月29日に東京地方裁判所に訴えを提起しました。
同社の,上記欺罔文言を申し向けた業者の従業員はその」損害賠償請求訴訟の被告の一人ですが,住所が判明しませんので(詐欺商法業者の従業員の住所などそうそう分るものではありません。),同従業員の名刺の裏に同人が自らのものであるとして記載した携帯電話番号から契約者の住所地を調査するべく,裁判所に調査嘱託の申立をし,裁判所はこれを採用してソフトバンクに9月15日付で調査嘱託をしました。
しかしながら,ソフトバンクモバイルは,あろうことか,裁判所の調査嘱託に対する回答を拒否しました。
調査嘱託は,法令に基づくものですから,個人情報保護法その他の法令によっても,回答するべきことが明らかであり,現にその他の通信事業会社は裁判所の調査嘱託や弁護士会からの弁護士法23条の2に基づく照会に応じているのが現状です。
訴訟の適切・迅速な係属は,裁判を受ける権利という国民の重大な権利をまっとうするために不可欠です。万一ソフトバンクモバイルが回答拒絶を続ければ公示送達による送達を経て判決されることになりますが,上記のような当事者の表示による債務名義(判決)は,住所地が記載されたそれとは経済的価値が全く異なります(強制執行は困難になります。)。他方,応訴の現実的機会を奪われる加害者である業者従業員の裁判を受ける権利をも実質的に害することにも考えが致されなければなりません。ソフトバンクモバイルの対応は,裁判の迅速化に関する法律の指向するところを阻害し,裁判所を挙げて調査嘱託の実を挙げていこうとしているところ(判タ1267号5頁の東京地方裁判所民事部プラクティス委員会の検討結果参照)に真っ向から対立する,大企業としてあるまじき行為であり,健全な法秩序を著しく害するものとして,厳しく非難されるべきものというほかありません。(荒井哲朗)