先日報告した抗告許可決定がなされた事案について,考えるところをいま少し詳細に述べておくこととする。
本件許可抗告の申立は,不動産強制競売手続においていわゆる無剰余通知が発せられ,同手続が取り消されることが必至となった場合に,市場価格を基準とすれば無剰余の状況にはなく,強制競売手続が取り消されたことを奇貨として,債務者が不動産の転売その他をする可能性があることから,この点に保全の必要性がある(その前提である権利保護の必要性にも欠けるところはない)ものとしてする不動産仮差押命令の申立が許されるかという,近時民事執行実務に携わる法律実務家の間で極めて高い関心を集めている問題について,最高裁判所の判断を仰ぎたく,抗告の許可を求めたものである。
本論点については,最高裁判所の判例がなく(また,大審院又は上告裁判所の判例もなく),抗告裁判所である高等裁判所の判例として原決定と結論を異にし,その理由をも異ならせる決定例として名古屋高決平成20年10月14日判時2038号54頁・金法1870号57頁・金商1323号61頁がある。
本件のような仮差押が可能であるか否かは民事執行制度の存在意義の根幹にかかわるものである上,運用がばらばらになされて良い性質のものでないことが明らかであり,最高裁判所によって判断が示される必要性が高いことはおよそ異論のないところであろうと思われた。(続く)