対ソフトバンク訴訟第1審判決等報告(4)

(続き)
不法行為法上の要保護利益性について考えてみる。
1 まず,今回の判決は,「調査嘱託に対して回答すべき義務は,嘱託先が当該調査嘱託をした裁判所に対して負う一般公法上の義務であり,当該調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対して負うものではない」という。こんなことは当たり前のことである。しかし,何故そのことが「嘱託先が当該調査嘱託に回答しない行為について,当該調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対する不法行為が成立する余地はない。」との結論に結びつくのか,全く理解できない。
 民訴法は,国民個々人が法治国家における司法を利用して権利救済を求めて提訴する手続を規律するものであって,訴訟当事者の利益と全く無関係に存在するはずもなく,調査嘱託に(違法に)回答しなかったら,訴訟当事者の法的保護に値する利益が害されるのは当たり前の事柄であって,それが民法709条との関係で違法な利益侵害行為と評価されるのに何の障害も観念し得ない。本件でも,ソフトバンクが調査嘱託に応じないことにより,詐欺被害者の訴権の実効性のある適切な行使及び適切な権利の実現という具体的な権利がソフトバンクにより害されているのである。
 民事訴訟手続において適切に私的利益の実現が図られるべき利益が,「法的保護に値しない」などとは,いやしくも民事裁判官が言うべきことではないだろう。
(続く)