その日,私は当番弁護(逮捕・拘留された人が初回無料で弁護士と会って相談できる制度)の待機日でした。
私が事務所で仕事をしていたら,午前10時ころ,法テラスから電話があり,当番弁護士の出動要請がありました。
電話のすぐ後に事務所にFAXが届き,被疑者名,事件名や勾留場所が通知されます。
それを見てみると,逮捕が1日前であることや,備考として,勾留場所は警察署だが,現在は検察庁で取り調べを受けていることが書かれていました。
勾留場所である警察署から検察庁への移動は,基本的に被疑者ごとではなく,警備の関係上,複数の被疑者をまとめて行います。
護送車は何度も出るものではないので,基本的に検察庁での取り調べがある日は朝から晩まで検察庁に身柄が置かれることになります。
さて,逮捕直後の検察庁での取り調べは,検事にファーストインプレッションを与えるわけですから,検事の勾留請求の有無の決定や,今後の捜査方針,処分見込みなどに大いに影響し,被疑者にとって極めて重要な意味を持ちます。
そんな取調べにおいて,被疑者が自分の置かれた立場も権利も理解せずに百戦錬磨の検事に会ったらどうなるか……真意ではない供述の誘導や,最悪は虚偽自白につながり,極めて不利な立場に陥りかねません。
そのため,弁護士としては,直ちに接見に向かい,自分の置かれている立場の説明や,黙秘権等の権利の説明をしなければなりません。
と,考えて,私は,その日,予定の空いた午後一番で検察庁に向かい,接見を申し込みました。
しかし,実は検察庁での接見はわずか15分しかできません(この運用にもいろいろと文句を言わなければならないのですが,とりあえず置いておきます)。
初回接見でやるべきことは,当番弁護士の説明,事情の聴取,刑事手続きの説明,今後の見通しの説明,権利の説明,家族への連絡の有無の確認,援助制度の説明,国選弁護制度の説明,資力申告書の作成などなど,膨大です。
はっきり言って,15分ではすべてを十分に行うことは不可能です。
特に,今回の事件では,被疑者には何よりもまず頼みたい,ということがあり,その話を聞き,段取りをつける必要がありました。
要するに外部の人間への連絡なのですが,これは下手をすると弁護士が罪証隠滅に手を貸すことになるので,慎重に慎重に検討する必要があります。
なので,私もよくよく話を聞きました。
当然,時間が無くなります。
結局,私は被疑者国選選任に必要な書類の作成について十分に説明できず,被疑者に援助制度の利用の説得を十分することもできませんでした。
そのため,勾留決定後に改めて被疑者の要請に基づき接見に行き,国選関係の書類を整え,国選弁護人の指名打診を受けるという遠回りをする羽目になりました。
果たして,私は検察庁に接見に行くべきだったのでしょうか。
その日の夜7時ころまで待てば,被疑者は警察署に戻るので,長時間の接見により,被疑者の話を十分聞き,外部への連絡をどうするか判断し,適切な事件の見通しを立て,各種権利や制度の説明もすることができたでしょう。
被疑者によっては,15分の接見よりも,ずっと当番弁護という権利を有効活用できていると考えるかもしれません。
もしくは,15分の接見でひたすら援助制度や国選の手続きについて説明し,準備を整え,手続後,改めて接見するという手がいいのでしょうか。
しかしこれは,直ちに外部の人に連絡を取ってほしい,という被疑者には向かない気がしますし,気が弱い被疑者で虚偽自白の可能性があるような場合には15分の大半を使ってでも権利や虚偽自白の問題の説明をする必要があるでしょう。
なお,私が今回した勾留直後の接見は,当番弁護士としての接見でもなければ,国選指名打診を受けた国選弁護人としての接見でもないので,報酬算定の対象外です。
それを法テラスの担当者に言われたので,釈然としないものがあった私はつい皮肉を言ってしまいました「行かなければよかったんですかね。」と。
担当者いわく,「そうですね,行かなければよかったと思います。」
さて,結論は,よくわかりません。
今のところ,気の弱い被疑者の否認事件の可能性があるのだから,たとえ15分でもいいから直ちに接見にいって権利の説明をして虚偽自白の可能性を減らすことが最優先であり,話足りないところがあったのならもう一度行けばいい,と思っています。
今後も当番弁護士の名簿への登録は継続するつもりなので,経験を積みながら改めて考えていくつもりです。