不招請勧誘と新規委託者保護

前回の記事に引き続き,先物取引被害について少々。

先物取引には新規委託者保護義務というものがあります。先物取引業者(及び外務員)は,委託者に対し,委託者が真に自己の相場判断に基づく注文をなしうるような知識,経験を蓄積させ,保護,育成し,十分な自主的判断がなしうるまでに不測の損害を被らせないように建玉を抑制し,過大な取引をさせたり,過大な取引を行うことを勧誘したりしないようにしなければなりません。

この義務の具体的な基準として,平成17年5月1日に先物取引の主務官庁である経済産業省,農林水産省が制定した「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン」(以下,「ガイドライン」)では,次のように定められていました。

 

「過去一定期間以上(注1)にわたり商品先物取引の経験がない者に対し,受託契約締結後の一定の期間(注2)において商品先物取引の経験がない者にふさわしい一定取引量(注3)を超える取引の勧誘を行う場合には,適合性原則に照らして,原則として不適当と認められる勧誘となると考えられる。

(注1)「過去一定期間以上」とは,直近の3年以内に延べ90日間以上を目安とする。

(注2)「一定の期間」とは,最初の取引を行う日から最低3ヶ月を経過する日までの期間を目安とする。

(注3)「商品先物取引の経験がない者にふさわしい一定取引量」は,建玉時に預託する取引証拠金等の額が顧客が申告した投資可能資金額の1/3となる水準を目安とする。」

 

このガイドラインの「3分の1」などの具体的基準は各業者の受託業務管理規則中でも定められ,裁判例においても広く参照され,大きな考慮要素のひとつとされてきました(新規委託者保護義務を果たしたか否かは実質的に判断されるべきものなので,基準を守ったから適法というわけではないことは当然ですが。)。

ところが,ガイドラインに代わる形で定められた平成23年1月7日の「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」(以下,「指針」)には,「3分の1」などの具体的基準が明記されていません。

これをいいことに先物業者は「3分の1」基準はもう存在しないなどという趣旨の主張をすることがあります。現に近年の事例では新規委託者に対し投資可能金額の半分を超えるような取引を平気でさせているケースも見られます。

しかし,このような業者の態度は明らかな誤りだと私は考えます。

指針策定時の主務官庁である経産省のパブリックコメントに対する回答では,次のように記載されています。

 

【質問】「商品デリバティブ取引の経験がない者に対する勧誘」が、適合性の原則に照らして、不適当と認められるおそれのある勧誘の1つとして規定されたことは高く評価できる。

従来のガイドラインでは、原則として不適当と認められる勧誘として定められていた、過去一定期間以上(直近の3年以内に延べ90日以上を目安とする)にわたり商品先物取引の経験がない者に対し、受託契約締結後の一定期間(最初の取引を行う日から最低3ヶ月経過する日までの期間を目安とする)において商品先物取引の経験がない者にふさわしい一定取引量(建玉時に預託する取引証拠金等の額が顧客が申告した投資可能金額の1/3となる水準を目安とする)を超える取引の勧誘を規定すべき。」

【回答】「従来、先物取引未経験者については、特に顧客保護を図るため、原則として不適当と認められる勧誘の対象となる取引を委託者保護ガイドラインにおいて画一的に規定する必要がありましたが、今般の法改正において不招請勧誘の禁止が導入され顧客保護が図られることから、本指針において明示する必要はなくなったものと考えられます。

また、デリバティブ取引の経験がない者に対する勧誘を適合性の原則(法第215条)に照らして、不適当と認められるおそれのある勧誘として位置づけ、業者内審査手続により適切に審査していただくこととしますが、いずれにせよ、主務省として、顧客保護が適切に図られているかどうか厳格に監督してまいります。」

 

このように,指針では基準が「明示」されていないだけであり,撤回されたわけではありません。そもそも先物取引の危険性には何ら変化がなく,新規委託者を保護する必要性は変わっていないのですから,保護の基準が変動する要素がありません。

 

ましてや,今後不招請勧誘が解禁されてしまうのであれば,なおさらガイドラインの基準は厳格に守られるべきでしょう。

業者には新規委託者の保護を徹底してもらわなければなりません。

 

 

おまけ

ブログのネタにしようと思っていた水槽ですが,いい写真が撮れずなかなかアップできません。

とりあえずエビ達による餌の取り合いの場が微笑ましかったのでアップ。

エビ