第1 東京高等裁判所平成31年3月28日判決
先日,東京高裁で,商品先物取引の事案で,外務員は,取引開始前に一般的なリスク等の説明をするのみでは足りず,個別の取引の場面でも両建のリスク等を説明すべきであり,また,実際に両建を選択した後においても,必要に応じて損切りを指導したりする等の指導助言義務を負うとした判決を得ましたのでご報告いたします。
1 事案の概要
業者:第一商品
顧客の投資経験:被告会社で本件取引の4年前からFX取引を行っており,その他ネットで信用取引,現物株,投資信託,国債の経験等がある人でした
原審:東京地方裁判所平成30年9月28日判決
過失相殺:3割
2 判決の内容
本件は,両建等の特定売買の勧誘の違法性が大きな争点となった事案でした。
判決はまず,「商品先物取引業者は,顧客の相場予測が当たっても当たらなくても,取引ごとに手数料収入を得ることができ,法が,両建の勧誘を禁止し,両建取引を理解していない顧客から受託することを禁止したのは,商品先物取引の射幸性及びその危険性に加え,商品先物取引業者と顧客との間にそのような不均衡が存在することから,商品先物取引業者が顧客の利益をないがしろにして手数料収入を得ようとすることを防止するためであると解される」とし,①業者と顧客の利益構造の不均衡を指摘しました。
要するに,商品先物取引における利益や損失はいずれも顧客に帰するものであり,顧客において利益を得ることができるかどうかは本来不確実である。これに対し,商品先物取引業者は,顧客の相場予測が当たっても当たらなくても,取引ごとに手数料収入を得ることができる,顧客と業者の間には利益構造に不均衡があるという点を指摘しています。
次に,「被告らは,商品相場の値動きの予測に精通し,かつ,原告の財産状況や取引経験,本件先物取引の状況を全体として俯瞰できる立場にあるのである」とし,②外務員の顧客の状況等を客観的に俯瞰できる立場(専門家としての立場)を指摘しました。
そして,このような業者と顧客の利益構造の不均衡や外務員の客観的に俯瞰できる立場から,業者は,顧客に対して,
「両建の仕組みとそのリスクを説明した上で一審原告の責任と判断に委ねるだけではなく,取引開始後の個別取引の場面においても両建のリスク等を一審原告に説明すべきであり,その結果一審原告が両建を選択した後も,必要に応じて損切りを指導したり早期の手仕舞いを助言したりする等の指導助言義務を信義則上負う」とし,外務員が適切な指導や助言をしたとは認められないとしました(過失相殺3割)。
3 本判決の意義
(1)説明義務や指導助言義務が問題となる時期について(指導・助言義務の内容)
本判決は,以下の3つの時期(各段階)の説明義務,指導・助言義務を問題にしています。
①一連の取引開始時の一般的な説明義務
②取引開始後の具体的な取引前(両建前)の説明義務
③取引開始後の具体的な取引後(両建後)の指導・助言義務
(ただし,後2者については一体的に判断している)。
これは,取引開始前に取引の説明をすれば,あとは原告の自己責任に任せるということでは足りないということを判示しており,大変意義があると思います。
(2)本判決の射程
本判決は,①商品先物取引業者と顧客の間には不均衡が存在していることや②外務員の立場といった構造上の問題点を正確に指摘した上で,外務員には顧客に対して適切に指導し助言する義務が存在すると指摘しており,大変意義があると思います。
さらに,このような①②という特徴は,なにも先物取引に限定される構造上の問題ではなく,他の投資取引一般にも共通して認められる特徴であり,他の投資取引や各注意義務を考えるにあたっての指針にもなりうる汎用性のある裁判例と評価できる可能性があります。
具体的な裁判例は,弊所のHPの裁判例の欄に掲載してありますの,参考してください。
第2 平成最後の桜の1枚
牟岐線:木岐駅 特急むろと
4月の1枚といえば,桜しかありませんね。
牟岐線は,徳島から,阿南や日和佐を経て,室戸岬を結ぶ四国南端の海辺を走るローカル線です。
桜咲く早朝の海辺の無人駅に,朝日を浴びた2両の列車がやってきました。
土讃線:箸蔵-坪尻 四国まんなか千年物語
桜!,こちらはもう説明不要ですね,桜満開,春爛漫!
土讃線は,香川県と高知県の山間を結ぶ,四国鉄道の大動脈です。
平成最後の桜舞う鉄道物語は,来週以降は,そろそろ東北へと進路を取るでしょう。