いわゆる未公開株商法被害事案において,勧誘業者及びその役員従業員,株式発行会社・関連有限責任事業組合及びそれらの役員らに対して損害賠償を求めたものである。
事案は,日産の著名な自動車であるスカイラインの開発担当者であった技術者が日産を退職後に設立して代表を務めていた会社(エスアンドエスエンジニアリング)が,株式公開準備室を設置して上場を云々し,関連する有限責任事業組合(組合)に1万6600円程度で割り当てた株式を,売却価格の半額を業務委託料として支払うこととして販売業者に40万円もの価格で販売させていたというものである。
控訴審判決は,エスアンドエスエンジニアリングと組合の人的関係(役員構成),販売業者を通じて被害者に交付された勧誘資料の記載内容などから,組合は,あたかもエスアンドエスエンジニアリングの株式が上場される具体的な見込みがあるかのように装って,1株1万6600円程度で発行された株式を1株40万円という非常な高値で一般投資家に投資を勧誘するスキームを構築し,販売業者に実際の勧誘を行わせるべく企図して,配付資料のひな形や対応マニュアルを作成・交付し,同スキームを実行したものと認定した上で,エスアンドエスエンジニアリングに活動実態があったとしても,違法性に関する判断を左右するものではないと判示した(なお,被害者は組合に清算合意が記載された書面を交付しているが,被害者が本件出資が違法な勧誘行為に基づくものであることを認識していたとは認められないから,本件出資が違法な勧誘行為に基づくものであることを前提とする損害賠償請求等は,本件清算合意の対象となっていない(から本件請求は妨げられない)と判示している。)。
また,販売業者らは,組合の指示の下,エスアンドエスエンジニアリングが将来的に上場できると信じていたと主張したが,判決は,出資額の半額にも上る業務委託料を得ているところ,勧誘資料やマニュアルは全て組合から提供されていたのであり,投資勧誘対象者を探して勧誘行為を行うという業務のみの対価としてそのような高額の報酬を得ることに疑問を持たなかったというのは不自然であり,上場が不確かなものであることを知りつつ,組合の組合員となって一般投資家に対する勧誘を実行したものと推認されるとして責任を肯定した。
1審は請求を全部棄却(公示送達による送達を経た被告まで!)していたことから,被害者が控訴をしていた。この請求を棄却した1審裁判所は(現在は裁判長が交代してそのようなことはなくなったが),何とも表現のしようのない程度に「特殊な」裁判所であり,多くの弁護士(司法利用者)が被害に遭っていた。「栄転願い」を出さなければ裁判所による被害を防ぐことはできないのではないかといった悲痛な声も上がっていたのである。当職もいくつかの訴訟で敗訴判決を受けたが(判決の見通しが困難であるとは思っていなかったから最初は本当にびっくりしたが,徐々に驚かなくなった),今回の控訴審判決で無事取り消され,これで同裁判所によってされたおかしな判決は当職の担当分全てが取り消されて,一掃されたということになった。