証券取引・金融デリバティブ取引・ システムトラブル 有価証券報告書等虚偽記載

 当法律事務所は,証券・仕組債・金融デリバティブ・有価証券報告書等虚偽記載の問題に積極的に取り組んでいます。当法律事務所の代表は全国証券問題研究会の幹事を務め,所属弁護士は,証券取引被害に関する複数の書籍(取扱事件欄参照)の執筆にも参加しています。
 これまでに相当件数の事案を担当してきましたが,解決に当たっては守秘条項が付されることが極めて多く(これに安易に応じるのは好ましいことであるとは思いませんが),和解で終了した事件についてはその内容を述べることはできませんが,当法律事務所が担当した証券被害の裁判例の一部は「主な担当裁判例 証券取引・金融デリバティブ取引」に掲記してありますので,ご自身の被害との類似性や弁護士がこの種事案においてどのような主張立証を行うのか,金融商品取引業者がどのような反論をし,裁判所がどのような判断をしているのかを詳細に知りたい方はご参照下さい(もっとも,一般の被害者の方が専門的な裁判例などを読み込むのは大変であり,それに大きな意味があるとは思いませんから,特に無理をして読もうとする必要はありません)。

1 過当取引

 株式取引等の証券取引においてかつて最も問題が多発していたのは,過当取引の問題です。
 過当取引(チャーニング)とは,証券会社が証券取引における顧客の口座を「支配」し,顧客の証券会社への信頼に乗じて,証券会社の金額・回数において過当な取引を行って手数料稼ぎを行うことをいいます。
 金融商品取引法36条は,「金融商品取引業者並びにその役員及び使用人は,顧客に対して誠実かつ公正に,その業務を遂行しなければならない」と定め,金商法40条2号の「金融商品取引業者等は,業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように,その業務を行わなければならない。・・・2.前号に掲げるもののほか,業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保するための措置を講じていないと認められる状況,その他業務の運営の状況が公益に反し,又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。」との規定を受けて金融商品取引業等に関する内閣府令123条3号は,「業務の運営が公益に反し,又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの」として「著しく不適当と認められる数量,価格その他の条件により,有価証券の引受を行っている状況」を定め,金融商品取引業者は,当該状況に該当することがないように業務を行うべきであるとしています。また,日本証券業協会の自主規制規則である,「協会員の従業員に関する規則」第7条3項7項では,「顧客カード等で知り得た投資資金のその他の事項に照らし,過度な数量の有価証券の売買その他の取引等の勧誘行うこと」が禁止されています。
 違法な過当取引に該当するかどうかは,顧客の知識,経験,資産状況,投資目的,取引金額,回数,売買回転率,銘柄数,手数料率等を総合して判断すべきであり,この点は広義の金融商品取引被害全般に共通するものですが,証券取引における過当取引については米国におけるチャーニングの法理が強く意識され,?過当性,?口座支配性,?悪意または故意の三要件を中心として総合的に諸事情を勘案して判断されることが多いように見受けられます(もっとも,現在の裁判実務は必ずしもこれに拘泥されてはおらず,さまざまな判断基準が示されている状況です。より柔軟な規範立てが望ましいと考えられるところです。)。
 なお,株価指数証拠金取引(くりっく株365)は,金融商品取引法の規制に服する取引ですが,被害実態は商品先物取引被害と酷似しており,先物取引被害訴訟において広く用いられてきた過当取引・無意味な「特定売買」についての判断手法が用いられることになります(東京地判平成28年5月23日参照)。

2 金融デリバティブ取引

(1)仕組み商品(仕組み債,仕組み投信)
 仕組み商品とは,デリバティブ(オプションの売り等)を組み込んだ金融商品(債券,投資信託)をいいます。日経平均リンク債,EB債,デュアルカレンシー債,FXターン債,ノックイン型投資信託等がその例です。
 仕組み商品は,その商品の仕組みを理解すること自体が困難であり(仕組み商品によって得られる利益はオプションの売りによって得られるプレミアム等が原資になっているところ,その利益がリスクと見合っているかどうかは,金融工学(2項分布,モンテカルロシミュレーション等)を用いて計算しなければ判断をすることができない性質のものであり,一般投資家がこれを判断することはそれ自体極めて難しいものです。
 日経平均リンク債を例にとれば,「5年間に日経平均株価が35%以上下落しなければ投資元本は保証されるから安全な商品です。」等と勧誘されてこれを何となく信じて購入するケースが見受けられますが,過去のデータをみると日経平均株価が一定時期から5年間の間に35%以上下落する確率は約59%(本文記載時を基準として)にものぼっており,これらの数値(ボラティリティ等)すら理解せずに商品購入の判断をすることは極めて危険です。
 証券会社や銀行の外務員でも仕組み商品の内容(仕組み・リスク)について深く理解していないことから,リスクが少ない商品であると認識している場合があり,必然的に仕組みやリスクについての説明義務を怠った勧誘がされることが多く(当法律事務所の弁護士が担当した案件ではこの点の分析,指摘が奏功したと思われるものがあります。例えば,銀行系証券会社のノックイン型投資信託販売に違法性の意識を認めて損害賠償を瞑した判決として,東京地判平成23年2月28日判例時報2116号84頁・金融法務事情1920号108頁・金融・商事判例1369号44頁),法律相談やそれに引き続く被害者からの事情聴取をいくら詳細にしても,それだけではこの種の訴訟類型においては違法性の意識を正しく指摘することは困難であり,弁護士としては,相談者の認識等を離れた部分での分析等にも力を注ぐ必要があります。
 また,国債や預金で安全に資金運用をしていた高齢者などに対してこれらの商品を勧誘するなど,適合性原則に反する勧誘がなされるケースも散見されます。特に,対象指数(日経平均価格等)が一定の範囲を超えて下落しない限り元本が保証されるような仕組み投資信託では,「リスク限定型」「リスク軽減型」などという呼称が付されて販売されていた経緯があり,その傾向も顕著です(ただし,現在ではこのような名称の使用は規制されています。)。
 この種取引による被害については,訴訟もしくは金融商品分野のADRを利用して解決を図ることとなります。

(2)為替デリバティブ
 為替デリバティブ取引とは,為替を対象とした金融派生商品であり,具体的には,通貨オプション取引,通貨スワップ取引,金利スワップ取引などがその例です。
 通貨オプションを例に具体例を挙げると,輸入業者に対して,「ドルコールオプションの買い取引を行うことで,円安になった際のリスクをヘッジすることができる。」「ドルプットオプションの売り取引を組み合わせることにより(オプション料の)支払いを負担する必要がなくなる。」などといった勧誘がされる例が典型的です。しかし,上記通貨オプション取引には,一定価格以上に円安が進行するとオプションが消滅するノックアウト条項が付されており,顧客の利益は限定的となるのに対し,コールオプションの買取引の取引金額に対してプットオプションの売り取引の取引金額が数倍に設定されており,円高に進んだ場合に顧客側に生じる損失額が(無限定かつ)多額になることが多く,問題が頻発していました。
 為替リスクをヘッジする必要性が無い会社や,あるいはヘッジする必要性がある会社であっても,いわゆるオーバーヘッジなどその目的に沿わない為替デリバティブ取引をさせられている場合には,そもそも顧客の投資意向に合致しない金融商品を購入させられているという点で適合性原則に反するものといえます。
 また,為替デリバティブ契約の締結に際し,円高になった場合に想定される損失について,顧客が理解できるように説明していない場合には,説明義務違反となりえます。金融機関では,契約期間中に円高になる程度及びその確率について,オプションのプレミアムを算定するに当たり当然に把握しているはずですから,これらの事項についても十分に説明義務を尽くされなければなりません。通貨オプションの例において,顧客は,金融機関からドルコールオプションを購入し,金融機関に対しドルプットオプションを販売していることになりますが,それぞれのオプション代金(プレミアム)の価格を認識しなければ投資判断が行えないはずであるのに,顧客はコストがかからないと説明されるにとどまり(ゼロコストオプション)これを認識していない場合がほとんどでした。
 当法律事務所でも,企業の顧問弁護士の紹介を経るなどしてこの種事案について相当数の法律相談を受け,金融ADRによって高い割合の損害を銀行の負担とするあっせん案を成立させることができたものがありました(現在では円安の傾向にあることもあってこの種の紛争はあまりありません)。

COLUMN 予測を超える損失の拡大 ?ルールは一方的に破られる?
 都内在住の夫婦は,インターネットで外国為替証拠金取引取引を行い,高いレバレッジ(倍率)がかかった取引であったため,600万円弱の原資を半年で8000万円を超えるまでに殖やすことに成功していた。為替変動によって証拠金が一定程度以上失われると自動的に全取引が決済されるというロスカット・ルールと呼ばれる仕組みが採用されている取引であったことから,取引を拡大していって値動きが思惑とは逆に行ったとしても,一定程度の金額が確保されることになるという安心感があった。

 平成19年7月27日午前2時28分,第何派かのサブプライムローン問題に端を発する為替相場の急変の影響で,8000万円が一瞬にして消えた。為替相場の変動の影響で差損益が生じるのは仕方がない。ただ,ロスカット・ルールが適用されていれば少なくとも900万円程度は確保されることになるはずだった。ところが業者は,相場の混乱でロスカット・ルールに従った取引ができなかったといい,900万円が確保されていないどころか,さらに1000万円を支払ってもらわなければならない,といってきた。約款には業者がロスカットを「する」と記載されてはおらず,ロスカットを「することができる」と書いてあるなどというのである。

 しかし,ロスカット・ルールは,業者にとっては証拠金以上の差損金の取りはぐれを予防する方策だろうが,顧客にとっては損失を限定する防波堤として機能する。ロスカットをするしないを業者が勝手にするというような主張を認めるわけにはいかない。主婦は訴訟を提起し,東京地裁はその主張を認めて業者に賠償を命じた。結果は満足するべきものであったが,当然の賠償を得るためには,相当の労力を要した。

 約款は,業者が一方的に定めるものであり,投資家の側が変更を求めることができるものではない。投資家は業者が定めたルールに従わざるを得ないのである。しかし,業者の側はそのルールを一方的に破ったり,勝手な解釈をしたりすることもある。そのような約款解釈や実際の取扱の予測困難性,不安定さは,見えにくいが大きな投資のリスクでもある。業者がルールを破ったときに司法が正しく機能するかどうかも予測は困難である。これもまた,専門家であっても予測することができない,大きなリスクである。

3 システムトラブル等

 インターネット取引においては,(広義の)システムトラブル等も多発しています。相場が乱高下する場面で,取引画面がフリーズしてしまったり,注文が出せなくなったり,といった事象が多く発生しているようです。
 また,システムの正常さ・公正さが外部から見えにくいこともあって,スプレッドが恣意的に拡大されたり,スリッページが相当と考えられる範囲を超える頻度・範囲で生じたり,俗に「ロスカット狩り」と呼ばれるような手法が用いられているのではないかとの疑念が生じるような状況もしばしば見られます(このことは,いわゆるトレール注文についても見られます。)。
 当法律事務所の弁護士は,FX取引において,ロスカットの発動が適切になされなかったという事案について,適切にロスカットがされていたであろう場合との差額の賠償を求めた訴訟を担当し,同事件の判決である東京地判平成20年7月16日金融法務事情1871号51頁はロスカットルールに関する初の司法判断として大きな注目を集めています(司法試験受験生にもなじみの深い判例百選に取り上げられています)。高いレバレッジをかけて,海外の株式市場の動向等により我が国における取引レートが急激に変動することが当然に予想されるFX取引において,未曾有とでも言うべき相場混乱が生じたわけでもないのに瞬時の約定ができないというのでは,正常な金融商品であると評価することは難しいでしょう。
 「安全性」をうたい文句にしてきた取引所取引においてもシステムトラブルは少なくない頻度で生じているようです。
 相対取引業者においてはこの種のシステムトラブルは後を絶ちませんし,提示レート(スワップを含む)が誤りであったなどとして事後的に取引益金の出金を拒まれるという事案も相当数あります。当法律事務所でも,このような事案についてFX取引業者の主張に理由がないことを(金融庁にも併せて)指摘し,取引益金の支払いをさせることができたことがあります。

4 有価証券報告書等の虚偽記載事案

 近年有価証券報告書や臨時報告書など継続的開示の対象となる書面(有価証券報告書等)の虚偽記載が問題となる事件が頻発しています(ライブドア事件,西武鉄道事件,ニウスコー事件,IHI事件など。市場の公正というものは,なかなかに得がたいものであるということを痛感せざるを得ない状況です。)。当法律事務所においても夥しい法律相談が寄せられたことを契機として,当法律事務所の弁護士を代表とするアーバンコーポレイション株主被害弁護団の中心となって株式会社アーバンコーポレイションの臨時報告書及び有価証券報告書の虚偽記載による損害について,同社やその役員らに対して複数の訴訟を追行したことがあります(なお,日本においては集団的訴訟はあくまでも事実上のものであり,米国のクラス・アクションのように特殊な手続が定められているわけではありません)。
 この種被害事案は,虚偽記載の発表による株価の下落により,被害がいっときに顕現化されることに加え,有価証券報告書等の虚偽記載についての金融商品取引法(以下,「金商法」という。)の規定のありよう(損害の推定規定が置かれていることなど)から,集団的訴訟になじみます。すなわち,金商法は,有価証券報告書等の虚偽記載につき,損害を受けた者の救済と違反者に対する責任追及が実効的になされるよう,要件や効果の面で損害賠償を請求する者に有利なように民法上の不法行為責任の一般原則に修正を加えた民事責任の規定を設けているのです(金商法21条の2第1項,2項。これらの規定は平成16年証券取引法改正法によって新設されたものです。)。法改正前は一般の不法行為責任として,個々の請求者ごとに異なる事情に基づく損害との因果関係や,様々な要因により変動する有価証券の価格について,虚偽記載がなければ市場で形成されたであろう想定価格と,虚偽記載によって嵩上げされた実際の価格の差額(損害額)など,立証困難な事項について各請求者ごとの立証を要するかのようにも考えられました。しかし,上記法改正により,発行会社は無過失責任を負い,因果関係についての立証責任が請求者ではなく発行会社に転換され(金商法21条の2第1項),かつ請求者が損害額を立証できない場合でも,一定の計算による損害額が推定され(同条2項),請求者ごとの個別事情を勘案することなく金商法に基づく損害賠償請求を行うことが可能となり,損害額が少額であっても泣き寝入りすることなく集団的に責任追及をする道が開けたのです。

COLUMN もう,株も買えないのか ?証券市場も公正ではない?
 08年6月,資金繰りに苦しむ東証1部上場の不動産開発会社アーバンコーポレイションに,救世主が現れたかに見えた。BNPパリバという外資系金融機関が300億円の転換社債型新株予約権付社債を引き受けることになったと公表されたのである。市場はもちろんこれを好意的に評価した。短期資金のショートすら危惧されていた同社の株価は顕著な下落傾向を見せていたが,300億円を調達できるという情報により,同社の株式には割安感が生じ,多くの個人投資家が同社株を購入した。
 しかしその1か月半後,アーバン社は東京地裁に民事再生手続の開始を申し立てた。同時に,パリバから調達できるといわれていた300億円は,スワップ契約という隠された契約によって,即座にパリバに戻される仕組みになっていたことが明らかになった。アーバン社は,パリバとともに市場と投資家を欺いていたのだ。多くの投資家が誤った情報の下で形成された株価でアーバン社株を購入していたが,一瞬にして無価値になり,東京地裁にアーバン社やその役員に対する訴訟がいくつも係属している。
 同様のいわゆる有価証券報告書等「虚偽記載事件」は,西武鉄道事件,ライブドア事件,IHI事件,ニイウスコー事件など,近年特に頻発している。

 理念として,市場は,公正であるべきではあるだろう。しかし,残念ながら現実には公正であり得ていないことは度重なる証券市場に対する背信行為の発覚によって明らかである。公正であり得るためには様々な障害があることも,理解しなければならない。情報は巨額の投資資金の増減を決定的に左右する力を有しているが,情報というものは,決して均等に行き渡る性質のものではないのだ。
 「貯蓄から投資へ」というスローガンは,銀行が適切になしえなかった企業への投資(貸付)を,一般投資家にせよということでもある。一般投資家の情報収集・分析・投資行為への反映能力と銀行等金融機関のそれとの気の遠くなるような格差を考えると,このスローガンはあまりに無責任であるというほかない。