1.口座提供行為者の責任の範囲

(東京地方裁判所令和4年1月27日判決)

 本件は、原告が、SNSを通じて知り合った外国人から、指示されたとおりに外国為替証拠金取引を行えば利益を得られる旨申し向けられ、証拠金名下に金員を送金させられたという、特殊詐欺被害事案である。判決は、騙取金の送金先となった口座の名義人について、その口座への送金額に限定されない被害額全体の損害賠償責任を認めた。

 国際ロマンス詐欺等の特殊詐欺事案においては、騙取金は複数の口座に送金させられるのが通常であり、特定の口座名義人の口座には原告の被害額の一部しか送金されていないことが多い。このような場合に、当該口座名義人が責任を負う範囲は当該口座に送金された金額に限定されるのではないか、との疑問が生じないではない。しかし、このような口座は、犯罪グループが匿名性を保ったまま犯罪収益を得るために重要な役割を担うものであり、口座名義人は、特殊詐欺全体に加功したものとして、原告の被害全額について責任を負うというべきである。実際の訴訟では欠席判決や公示送達での判決になる場合がほとんどであり、この点について議論が深まる機会のないまま全部認容判決が出されることが多いが、対席判決において全部認容している本判決にはいくばくかの参照価値があるものと思われる。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(確定)

1. 口座提供行為者の責任の範囲
(東京地方裁判所令和4年1月27日判決)
特殊詐欺事案において、騙取金の送金先口座の名義人の損害賠償責任を、口座への送金額に限定せず原告の被害全額について認めた事例 2.ミニッツカンパニー
(東京高等裁判所平成25年4月24日判決)