医療ないし医療法人に対する高齢者の高い信頼を利用して広く被害を多発させ,刑事事件にも発展した医療法人社団真匡会の医療機関債販売事案について,真匡会の代表理事長らの責任を認め,過失相殺を否定して損害賠償を命じたもの。
判決の主要部分は以下のとおり。
「医療法人においては,理事長が医療法人を代表し,その業務を総理するとされ(医療法46条の4),真匡会の定款においても,理事長のみが真匡会を代表するとされている。理事長は,原則として,医師又は歯科医師でなければならないから(同法46条の3),真匡会にとって,医師である被告脇坂が理事長であることは,医療機関債の発行のために重要な事柄であり,被告今井が文書等の内容を事後的であっても被告脇坂に確認したり,被告脇坂に対し,東京都の担当者に医療機関債の発行を以前から知っていた旨述べるように指示したのも,理事長である被告脇坂が医療機関債の発行を了解していなければ,医療機関債の発行の維持,継続が困難だと考えたからであると解される。
被告脇坂は,被告小泉及び被告今井の言動に不信感を持っていたのに,東京都等から真匡会の医療機関債の発行に問題があると指摘された後も,真匡会による医療機関債の発行を中止するなどの措置をとることも,理事長を辞任することもなく,被告今井らの説明を鵜呑みにし,東京都の立入検査等に立ち会って被告今井らの指示どおりに行動し,理事長被告脇坂名義での文書が提出されることを是認するなどして,医療機関債の継続的な発行を容易にした。また,被告脇坂は,真匡会の事業計画,財務状況等並びに具体的な医療機関債の発行内容及び方法,医療機関債により集められた金銭の使途等について,客観的資料を確認することを怠るとともに,東京都による医療機関債の新規発行の中止勧告後も,事後的に医療機関債の発行を中止した旨報告を受けただけであり,具体的にどのような対策を講じたのか,その対策が真匡会内部で徹底されているのか等について,確認もしなかった。
以上によれば,被告脇坂は,内容を確認せずに東京都等に真匡会名義の文書を提出し,被告今井らの指示どおりに行動すること等により,真匡会が違法な医療機関債の発行を継続するために相当の役割を果たしたということができる。そして,被告脇坂は,上記の医療機関債の発行が違法であることを知りつつ,これに加担したとまではいえないが,真匡会の代表者としてその業務について善管注意義務を負っていたにもかかわらず,平成23年7月25日に真匡会による医療機関債の発行を知り,東京都等から医療機関債の発行に係る基本的な文書の提出を求められ,同年8月23日に立入検査を受け,同年9月9日に不利益処分の予告を受けた後も,医療機関債の発行は適法であるとの被告今井らの説明を軽信し,医療機関債の発行中止などの措置等を行わなかった点で過失があり,本件医療機関債の発行及び勧誘について,他の被告らと共同不法行為責任を負う。」
(本件詐欺商法を阻止することは不可能であった,因果関係がないとの主張に対して)「被告脇坂は,平成23年7月25日に医療機関債の発行を知り,東京都から医療機関債の発行に係る基本的な文書の提出を求められた時点又は遅くとも東京都による同年9月9日の不利益処分の予告の時点で,その適法性に疑問を持ち,理事長として医療機関債の発行の停止に向けた具体的な行動を取るべきであった。そして,理事長である被告脇坂自らが東京都等に対し医療機関債の不正発行を申告すれば,東京都の調査ばかりでなく警察による捜査等が行われ,その後の医療機関債の発行がされなかった可能性が十分にあること,原告は,真匡会名義の預金口座に本件医療機関債の購入代金を送金していたところ,被告脇坂は,理事長としてこの口座取引を凍結することもできたことからすると,被告脇坂の上記主張を採用することはできない。」
(過失相殺について)「本件医療機関債の発行及び勧誘は,高齢の女性である原告に対する悪質な詐欺行為であり,被告脇坂は,それに故意に加担したとまでは認められないものの,同人には,東京都による調査や立入検査を受け,不利益処分の予告を受けながらも,その適法性に疑問も持たず,適切な措置を講じなかったという過失があり,その注意義務違反の程度は,原告不注意の程度と比べて著しく重いから,過失相殺をするのは相当でない。」
判決PDF(業者側控訴,和解)
⇒消費者法ニュース105号247頁
⇒先物取引裁判例集73巻111頁
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