本件は,詐欺的業者の首謀者が妻との離婚を仮装して財産分与をした事案について,離婚及び財産分与は通謀虚偽表示により無効であるとして債権者代位により居宅不動産の所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した事例である。
判例及び通説的理解に従えば,離婚は離婚届を提出する意思があれば足り,真実離婚する意思がなくてもよいとされ,仮装離婚であっても離婚としては有効である。離婚として有効である以上財産分与も有効であり,財産分与として不相当に過大な部分についてのみ詐害行為取消の対象となるに過ぎないとされる。
このような理解に従えば,仮装離婚の場合であっても分与財産の相当部分は夫婦に保持されることになるが,これが妥当な結論であるとは考えられない(なお,我妻栄博士は実質的離婚意思のない離婚は無効であると説かれている。)。
本判決は,離婚が仮装のものであることを詳細な理由を付して認定して離婚及び財産分与を無効とし,(予備的請求とした詐害行為取消権に基づく請求ではなく)主位的請求である債権者代位による所有権移転登記抹消登記手続請求を認容しており,高裁及び最高裁がこれを維持したことからも,財産隠匿のための仮装離婚が明らかな場合には通説的理解とは異なる解釈が許される(あるいはこのような場合には通説的理解からも同様の結論を導きうる)ことを示唆するものであって,(解釈学上の議論の対象となり得るほか)実務上参考になるものと思われる。
判決PDF (1審判決,業者側控訴)
判決PDF (控訴審判決,控訴棄却,上告棄却・不受理により確定)
⇒金融・商事判例1469号金判SUPPLEMENTvol.79
(東京高等裁判所平成22年9月29日判決ほか) 2.ソフトバンクモバイルの調査嘱託に対する回答拒否事件
(東京地方裁判所平成24年5月22日判決,東京高等裁判所平成24年10月24日判決) 3.保険証券番号不特定執行
(東京高等裁判所平成22年9月8日決定) 4.仮装離婚と財産分与の虚偽表示による無効・債権者代位による不動産移転登記抹消登記手続請求
(東京地方裁判所平成25年9月2日判決,東京高等裁判所平成26年3月18日判決) 詐欺的業者の首謀者が妻との離婚を仮装して財産分与をした事案について,離婚及び財産分与は通謀虚偽表示により無効であるとして債権者代位により居宅不動産の所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した事例 5.預金にかかる第三者異議訴訟
(東京高等裁判所令和元年11月20日判決,東京地方裁判所令和元年6月26日判決)第三者異議訴訟において預金が名義人に帰属すると判断された事例 6.判決確定後の被告の住所判明と更正決定
(東京地方裁判所令和元年11月28日決定)判決確定後に被告の住所が判明した場合にこれを併記した更正決定例 7.訴えの提起における当事者の特定・住所地の記載されていない債務名義の強制執行の方法等
(東京高等裁判所平成21年12月25日判決ほか) 8.詐欺商法業者の代理人弁護士の預かり金に対する強制執行を認めた事例
(東京地判平成29年7月25日,東京高判平成30年2月21日) 9.金融商品取引業者と取引履歴の開示
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(東京高等裁判所平成23年6月1日決定) 11.支店不特定執行
(東京高等裁判所平成23年3月30日決定ほか) 12.支店不特定執行(2)
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(奈良地方裁判所平成21年3月5日決定) 14.詐害行為取消訴訟
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