8.詐欺商法業者の代理人弁護士の預かり金に対する強制執行を認めた事例

(東京地判平成29年7月25日,東京高判平成30年2月21日)

 本件は,詐欺的業者が「今後1ヶ月位を目途として,破産申立手続を行うべく準備する」などと顧客に通知しながら,1年半以上にわたって同手続をとらずに放置していたという事案について,当該業者に対する債務名義を有する顧客(被害者)が,債権者代位権の行使等によって,当該業者から自社財産の預託を受けていた弁護士からの債権回収を試みて,奏功したという事案である。
 当該業者は,当該弁護士との間では債務整理手続に係る委任契約を締結し,自社残余財産を弁護士のもとに移していた。そのため,本件ではまずその財産を債権差押命令申立により当該弁護士のもとで固定し,次に当該委任契約を債権者代位権の行使により解除した上で,取立権及び債権者代位権に基づき,当該弁護士を直接相手取り,その残余財産の支払いを求めた。
 本件は上記のとおり,業者による事業停止後長期間にわたって破産手続申立てが行われず,清算手続きも行われず,財産もまったく開示されず,その間の財産流用等も疑われる状況があったために,やむを得ず行ったという経緯があり,安易な一般化はできないと思われるが,少し珍しい債権回収の一奏功例として参照されたい。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg (一審判決,相手方弁護士控訴)
⇒先物取引裁判例集81巻66頁
判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg (控訴審判決,控訴棄却,上告棄却・不受理により確定)
⇒先物取引裁判例集81巻78頁

1.弁護士会照会に対する報告義務
(東京高等裁判所平成22年9月29日判決ほか)
2.ソフトバンクモバイルの調査嘱託に対する回答拒否事件
(東京地方裁判所平成24年5月22日判決,東京高等裁判所平成24年10月24日判決)
3.保険証券番号不特定執行
(東京高等裁判所平成22年9月8日決定)
4.仮装離婚と財産分与の虚偽表示による無効・債権者代位による不動産移転登記抹消登記手続請求
(東京地方裁判所平成25年9月2日判決,東京高等裁判所平成26年3月18日判決)
詐欺的業者の首謀者が妻との離婚を仮装して財産分与をした事案について,離婚及び財産分与は通謀虚偽表示により無効であるとして債権者代位により居宅不動産の所有権移転登記抹消登記手続請求を認容した事例 5.預金にかかる第三者異議訴訟
(東京高等裁判所令和元年11月20日判決,東京地方裁判所令和元年6月26日判決)
第三者異議訴訟において預金が名義人に帰属すると判断された事例 6.判決確定後の被告の住所判明と更正決定
(東京地方裁判所令和元年11月28日決定)
判決確定後に被告の住所が判明した場合にこれを併記した更正決定例 7.訴えの提起における当事者の特定・住所地の記載されていない債務名義の強制執行の方法等
(東京高等裁判所平成21年12月25日判決ほか)
8.詐欺商法業者の代理人弁護士の預かり金に対する強制執行を認めた事例
(東京地判平成29年7月25日,東京高判平成30年2月21日)
9.金融商品取引業者と取引履歴の開示
(東京地方裁判所平成20年9月12日決定ほか)
10.詐欺的取引と裁判管轄(移送の可否)
(東京高等裁判所平成23年6月1日決定)
11.支店不特定執行
(東京高等裁判所平成23年3月30日決定ほか)
12.支店不特定執行(2)
(東京高等裁判所平成26年6月3日決定)
13.預金債権の時間的包括的執行
(奈良地方裁判所平成21年3月5日決定)
14.詐害行為取消訴訟
(山形地方裁判所平成19年3月9日判決)