6.アルファエフエックス

(東京地方裁判所平成22年4月19日判決)

 FX取引の区分管理義務に違反して巨額の預り金を関連会社の取引のカバー取引の証拠金に充て,結果20億円に上る顧客の預り金を消失させて自己破産したアルファエフエックス社の倒産に関し,FX取引業者及び証拠金を差入れずに取引を行っていた関連会社の役員らに対して損害賠償を命じた事例

 平成19年11月9日,関東財務局は,外国為替証拠金取引業者であるアルファエフエックス社に対して,証拠金等を自己の固有資産と区分して管理していないなどとして,6か月の業務停止命令の行政処分をした。しかし,このときすでに同社は20億円以上の預り証拠金を流用した挙げ句に失い,行政処分に先立つ同月6日に自己破産の申立をしていた。登録を経ている業者が,預り証拠金を全部消失させて自己破産の申立をし,その後にようやく行政が業務停止(登録取消でもない)の処分をするという,滑稽とすらいえる事態が生じたのである。すでに法令(内閣府令)の改正により顧客の預り資産の区分管理は,一応の制度化が完了したとされていた時期であった。

 このような例は決して希ではない。各財務局が公表している登録取消,業務停止処分の理由を概観すれば,登録業者であっても,顧客からの預り金を役員報酬や運転資金に流用していたとか,配当に回せる収益がないのに預り資産を取り崩して配当原資にしていたとかといった,正常な金融商品取引業であるとは到底見ることのできない態様で営業活動をしている業者が相当数存在する現状にあることが分かる。

 本判決は,証拠金の流出を防止するべき注意義務を怠ったとして,アルファエフエックス及び関連会社であるグラン・ディの取締役・監査役らに対して被害者の未返還証拠金相当損害金等の損害賠償を命じた事例である。預り金が社外に違法に流出されないようにするべきことはこの種業者の最も基本的な業務のありようであって,防止しようと思ったができなかったとか,自分は名目的役員なので何もしないで当たり前だ,などという抗弁が排斥されることは当然である。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(確定)
⇒金融・商事判例金融SUPPLEMENTVol.18No.4
⇒先物取引裁判例集59巻261頁
⇒金融法務事情金法判例Digest第21回?5
⇒判例タイムズ1335号189頁

1.レセプト債
(東京地判令和4年3月31日判決、東京高等裁判所令和5年11月8日判決)
「レセプト債」の証券化スキームにおいてSPC管理を受託していた会計事務所等の共同不法行為責任を認めた事例
2.大和証券
(東京地方裁判所令和4年3月15日判決)
大手証券会社である大和証券が、当時50代の主婦に対して、主婦が保有する有価証券を担保に合計9640万円の貸付けを行い(証券担保ローン)、当該証券担保ローンの借入金を原資として、仕組み債や投資信託など46銘柄の売買を繰り返し行わせた結果、全ての金融資産が失われた事案について、大和証券に対する損害賠償請求が一部認容された事例
3.静銀ティーエム証券
(東京地方裁判所平成23年2月28日判決)
銀行系証券会社によるノックイン型投資信託勧誘事案
4.アトランティック・ファイナンシャル・コーポレーション
(東京地方裁判所平成20年7月16日判決)
ロスカット・ルールに関する重要な初判断
5.リソー教育
(東京地方裁判所平成29年3月28日判決,東京高等裁判所平成29年9月25日判決)
有価証券報告書等の虚偽記載等により生じた株価下落につき,株式会社リソー教育に対し,金融商品取引法21条の2第1項に基づき,第三者委員会設置の発表前に株式を取得した株主らについて,第三者委員会設置発表前終値から処分価格の差額を損害としてその賠償を認めた事案
6.アルファエフエックス
(東京地方裁判所平成22年4月19日判決)
区分管理を怠った業者の役員らの責任に関する判決
7.アーバンコーポレイション役員ら
(東京地方裁判所平成24年6月22日)
アーバンコーポレイション事件の対役員らの判決
8.アーバンコーポレイション査定異議訴訟
(最高裁判所平成24年12月21日判決)
アーバンコーポレイション事件の対会社の判決群
9.野村證券
(東京地方裁判所平成25年7月19日判決)
仕組債の時価評価についての説明義務違反など 10.幸せwin,大橋ひかる,マネースクウェアジャパン
(東京地方裁判所平成20年10月16日判決)
情報商材業者や,これを利用して集客していた業者の違法性を肯定したもの 11.KOYO証券
(東京地方裁判所平成28年5月23日判決)
株価指数証拠金取引(くりっく株365)について説明義務違反,過当売買の勧誘等の違法性を認め,過失相殺を否定して損害賠償請求を全部認容した事例 12.SMBCフレンド証券
(東京地方裁判所平成17年7月22日判決)
日経225先物オプション取引被害事案