株式会社ゴールドリンクに対する損害賠償請求事件の控訴審判決

 本日,株式会社ゴールドリンクに対する損害賠償請求事件の控訴審判決があった。
 貴金属分割払いまがい取引である「ゴールド積立くん」「プラチナ積立くん」(商標登録を得ているようである)などと称する商法を公序良俗に反するとして損害賠償請求を全部認容した事例であり,原判決は下記に掲記した通りである。

5.ゴールドリンク


 本日の控訴審判決は,原判決よりもより詳細な判示をして,株式会社ゴールドリンクの商法を違法であるとし,同社の主張の全てを排斥している(途中で退社した従業員についてのみ,責任の範囲を在職中の取引に限定している)。
 東京高裁の判決であって大きな影響力があるものと思われ,すでに複数の弁護士から問い合わせを頂いているところであるので,判決文は後日HPに掲記することとして,判決のうち重要な部分を紹介しておくこととしたい。

 「商品先物取引法による法規制の趣旨に遡って本件各契約の性質について更に検討すると,商品先物取引法は,差金決済により取引関係から離脱することのできる先物取引が,過当な投機や不健全な取引となる危険性をはらむことから,取引秩序を維持するため,何人も商品について先物取引に類似する取引をするための施設を開設してはならない(同法6条1項・2項,商品市場類似施設の開設の禁止。同条違反については,懲役刑を含む罰則をもって厳しく対処される〔同法357条1号・363条1項〕。)とし,同法における『先物取引』として『当事者が将来の一定の時期において商品及びその対価の授受を約する売買取引であって,当該売買の目的物となっている商晶の転売又は買戻しをしたときは差金の授受によって決済することができる取引』を掲げる(同法2条3項1号)ところ,本件各契約は,商品先物取引法に定める『先物取引』と同一の性質を有する取引であり。同法6条1項の『先物取引に類似する取引』に当たることが明らかである。つまり,本件各契約は,金や白金についてはその利用価値より交換価値が重要であることを前提としたもので。契約当事者間で授受される差金の額は,被控訴人(買主)が解約を申し出た将来の時点での金地金等の取引価格の変動という偶然の事情で左右されるものであることも考慮すれば,本件各契約が,高齢の契約者が15年以上の長期にわたって分割代金を支払って金地金等の現物の引渡しを受けることのみが意図されたものとは解し難く,その実態は,このような長期の分割払期間中に分割金の支払をすることができなくなったり,望まなくなったりした買主が,将来の時点における金地金等の取引価格の変動という偶然の事情によって差金決済をすることになるという結果を招来し,控訴人会社が商品市場における取引によらないで商品市場における相場を利用して差金を授受するものとして,私的な差金決済を目的とする私的差金決済契約というべきである。そして,控訴人会社は,前記前提事実のとおり,商品先物取引法上の許可や金融商品取引法上の登録も受けずに本件各契約を締結させたものである。しかも,本件各契約は,商品市場における取引ではなく,顧客である被控訴人と控訴人会社との間のいわゆる相対取引によって行われるものであるから,取引秩序の維特についての制度的担保はなく,顧客による投下資金の回収又は金等地金の引渡しは控訴人会社の資産状況に依存することになるが,控訴人会社では顧客財産に対する法的な分離措置は採られておらず,被控訴人を含む控訴人会社の顧客は,控訴人会社の信用力について多大なリスクを負うこととなる(なお,被控訴人が控訴人会社の従業員らからこのようなリスクについての説明は受けていなかったと認められる。)。また,金等の価格が下落し,顧客が中途解約をした場合には,顧客に損失が生じる一方で控訴人会社が利益を得,金等の価格が上昇し,顧客が中途解約をした場合には,顧客が利益を得る一方で控訴人会社に損失が生じることとなり,本件各契約の締結により,買主である顧客と売主である控訴人会社との間に,不可避的に利益相反の関係が生じることになる。控訴人会社が被控訴人に対して以上のような本件各契約を締結させた行為は,これが前払式割賦販売契約に該当するかどうかを論ずるまでもなく,公序良俗に反し,民法上も不法行為を構成させるに十分な違法性を有するというべきである。」

 「また,控訴人らは,本件各契約の目的は金等の前払式割賦販売を目的とする契約であり,控訴人会社が本件契約4において,既払の割賦代金の範囲内で100グラム単位で金等地金の現物を受領して契約を終了できる『満期前終了』との規定を設け,同規定が本件契約1から3までにも適用される旨の合意がされているところ,この規定は,現物取引の一部履行により契約が終了することを端的に表しており,そこに差益授受の趣旨は見当たらないと主張する。しかし,そもそも,本件契約1から3までの各締結時には『満期前終了』の規定は設けられておらず,むしろ前記認定のとおりの差金決済(金地金等の現物によるものも含む。)による中途解約条項のみが置かれていたところ,『金(白金)地金売買契約変更合意書』が平成26年12月に作成されたとしても,同合意書が作成された以降に締結された本件契約4に設けられた『満期前終了』の規定(10条)が,同合意書が作成される以前に締結された本件契約1から3までに遡って適用されるとは解し難いから,控訴人らの主張は,その限りで前提を欠くと言わざるを得ない。また,『満期前終了』の効力が本件各契約に及ぼされると解したとしても,顧客から満期前終了の意思表示がされた場合,控訴人会社としての対応は『審査した上で応じることがある。』にとどまる(10条1項)のであり,その審査方法も明らかではなく,顧客と控訴人会社との間の法律関係が一義的に明確に規定されたものとは言い難い。さらに,被控訴人川内又は同服部が被控訴人との間で本件各契約を締結する際に契約終了事由の説明に用いた『ご契約に関しての確認事項』と題する書面に蝠『契約解除の申し入れ(中途解約)』が顧客の選択できる数種の選択肢の1つとして明確にうたわれており,中途解約する場合における『粗損益計算例』や,支払手数料分を含めた損益が顧客に発生する金等の時価のことをいうものと理解できる『損益分岐点』となる価格まで具体的に説明されている。加えて,本件各契約上,買主である被控訴人は,1年に1度支払う3万円の口座管理費等のほかに各契約の取引総額の10%を超える高率の額の『手数料』を支払わなければ金等地金の所有権が移転しないとされているところ,これが通常の前払式割賦販売であるとは,到底解し難い。
 本件各契約を金等の前払式割賦販売を目的とする契約であるとする控訴人らの主張は,本件各契約の割賦払期間を15年を超える長期としたこととあいまって,顧客をして,実際に割賦金を積み立てて金等を購入しているという意識を持たせることにより,公序良俗に反する本件各契約の実質を隠す手段と見ることも可能といわなければならない。控訴人らの主張は,採用できない。」

 「控訴人らは,平成27年3月1日から平成29年2月28日までの取引総数1742件のうち,1035件が代金の支払が続けられており,金地金等の現物引渡しで終了したものが660件で(うち『満期終了』が1件,『早受け渡し』又は『満期前終了』が659件),現金の差金による清算は30件にすぎないことからも,控訴人会社の提供する商品が現物取引であることを示していると主張するが,すでに見たとおり,控訴人会社において金等地金の現物引渡しの実績があることや,なお多くの取引では代金の支払が継続されていることと,本件各契約が違法な私的差金決済契約に当たることが相反するわけではない以上,本件各契約の性質や目的に係る前記認定が左右されるものではない。」

 この種商法の根絶のために極めて有意な判決であると思われる。各方面において利用され,被害の救済,根絶に役立てていただきたい。