原野商法の流行

 詐欺的な商法には,流行り廃りがあります。例えば,数年前は適格機関投資家等特例業務の形をとったファンドまがいの詐欺商法が非常に多くありましたが,今は法改正の影響もあってか,その形をとる商法は一時に比べ減少しました。それに代わって,現在流行の兆しを見せているものとしては,一つには仮想通貨に関連するものがあります。単に仮想通貨を口実にしただけの伝統的な劇場型詐欺から,仮想通貨を支払い手段とするマルチ商法,「新たに仮想通貨を作ります。それが正式に運用開始されれば一気に価値が上がるので今のうちに買いませんか。」という形で勧誘がされるもの(いわば未公開株詐欺の仮想通貨版のようなもの)まであるようであり,その形は様々です。
 そしてもう一つ流行の兆しがあるのが,原野商法です。これは昔に流行した形態の詐欺商法なのですが,なぜか再び被害が増えているようです。当職が所属している研究会でも原野商法の被害相談が多数寄せられています。最近自分でも1件原野商法を扱うことになったので,本記事では原野商法について軽く紹介したいと思います。

 原野商法とは,無価値に近い山林原野について,何らかの理由をつけて被害者に土地の価格を誤信させ,本来の価格よりも異常に高い価格で売りつける商法です。この商法が最初に本格的に流行したのは昭和50年代と言われており,このころは「新幹線が開通し,この土地は必ず値上がります。」などと言って土地を買わせる形態で行われていました。
 その後,このようにして無価値な原野をつかまされた被害者を相手に,「この(つかまされた)土地を高く売却するためには,別のこの土地を買う必要があります。」などと言って更なる原野を売りつけるタイプや,「高く売却できるこの土地と交換しましょう。」といって土地を交換させその差額を支払わせるタイプ,「この土地を売るためには測量が必要です。」として高額の広告費や測量費を請求するタイプ等の原野商法,いわゆる二次被害型が流行しました。
 現在再び流行の兆しを見せているのも,そのほとんどがこの二次被害型になります。
 かつての原野商法でよく売り物にされた那須,北海道,むつ小川原等の山林を所有している方は二次被害によく注意しなければなりません。

 さて,この原野商法には色々な論点があるのですが,最近しばしば話題に上がる論点として,税金がどうなるのか,というのがあります。税金についての詳しいところは税理士の領域なので詳細は省きますが,不動産を売却した場合,譲渡所得税というのが掛かります。不動産の所有期間によって税率が変わってくるのですが,高ければ所得の30%(+住民税及び復興特別所得税)もの税金がかかってきます。この税金の問題が特に表面化し得るのは,左記に挙げた土地を交換するタイプの二次被害です。土地の交換は,形式的には被害者が所有している土地を加害者に売り,加害者が所有している土地を被害者に売り,その売買代金の差額を被害者が加害者に支払うものです。例えば,被害者が土地を1000万円で加害者に売って,加害者から1200万円の土地を買い,差額の200万円を加害者に支払うという事例を考えてみましょう。取引の実態としては,被害者は無価値の土地の交換により200の損失を被っているのですが,形式的には被害者は無価値のはずの土地を1000万円で加害者に売却したことになっています。そうすると,形式的に見れば,被害者は不動産の譲渡により1000万円を得たわけですから,この1000万円を基準に譲渡所得税がかかります。
 ……被害者は詐欺によって損失を被っているのに,そんな追い打ちをかけるような課税をすべきでしょうか?
 取引の実質を見ればこのような課税があっていいはずがありません。
 とはいえ,当局は自発的に実質を慮って課税をしないという判断をしてくれるわけではありません。譲渡所得税を指摘されたら,当局を説得しなければなりません。しかし,これが簡単ではないようです。私はまだこの課税の問題に現実に立ち会ったことがないので,当局がどれだけ強硬かは実感がないものの,聞こえてくる話ではなかなかのものです。形式的には確かに課税の要件は満たされているわけですから,それを否定するためには当局を説得する確かな根拠があった方がいいでしょう。
 例えば,研究会の弁護士から話を聞いている対応としては,原野商法の相手方に対する損害賠償請求の勝訴判決を説得材料にした,というものがあります。確かに判決に詐欺的商法であった旨が書かれていれば,強い説得力がありそうです。
 また,不動産登記を巻き戻す,つまり土地の売買を登記上なかったことにすることことができれば,なおさら強い説得力を持つでしょう。

 私が他の先生と一緒に担当している事案でも,この課税の問題を視野に入れた対応をしたことがあります。当該事案では,一部の業者及びその業者の関係者との間で,和解をすることになりました。和解と言うと,一般的には「乙は甲に対し本件和解金として●●円を支払う。」「甲と乙は本和解条項に定めるほか何らの債権債務がないことを確認する。」のような形を採ることが多いです。しかし,そういったシンプルな和解をしてしまった場合,あとで当局に目を付けられた際に,いやいやこの不動産売買は原野商法被害なんです,と言っても合意書上はただの「和解金」であって詐欺による損害賠償がされた形にはなっておりませんし,和解で決着済みなので錯誤無効や詐欺取消によって不動産登記の巻き戻しができるわけでもありません。それでも事実経緯に着目すれば原野商法であることは明らかなのですが,当局が納得しないリスクがどうしても拭えません。かといって,和解条項として原野商法であったことを認める旨の文言を入れることは相手方が認めてくれません。そこで,私達は和解条項を少し工夫し,のちのち錯誤無効等を理由として不動産の登記を巻き戻せる余地を残すことにしました。
 
 実際に課税されるようなケースはまぁ,あまりないのではないかとは思いますが,和解をするにしてもそのような検討が必要になってくるわけです。

 原野商法はこれからも被害が多発し,今後も新たな論点が出てくるかもしれません。考えることを止めず,うまく対処していきたいですね。

以上