高裁逆転勝訴

ああ,どうも,こんにちは。ほけー
 と,惚けた始まり方をすることをお赦し下さい。
 なぜならば,昨日,1審で棄却されていた事件の控訴審判決が2件あったのですが,2件とも原判決が取り消され,請求が認容され,しかも,一つは海外ファンド被害事案について自分のところを辞めてから別会社における取引だから責任を負わないという(それだけ聞けばそれはそうだろうというような)難しい反論を乗り越え,取引の違法性をずばんと言い切った痛快なものであり,もう一つは,勧誘行為などに携わっていた者ではないFX預り商法の女性事務従業員について過失による幇助による不法行為責任をこちらの詳細な主張を汲んで認容してくれているものであり,それは,こんな判決が午後に二つも言い渡された日には,惚けた気分にでもならなければ弁護士なんかつらくてやってられないじゃないですか。

 それでは概要をご紹介します。
 一つ目。
 東京高判平成23年12月7日
 東京プリンシパル・セキュリティー・ホールディング株式会社,その代表者,実質的首謀者,関連会社代表者(実行行為者),その(名目的)取締役。
 東プリから分派して別会社を作った男T(詐欺罪で服役中)が実行行為者である,ケイマン所在のOCSレインボー・コーポレーションを営業者とするOCSファンドを高齢者に売り付けたという事案。被害者高齢者4名。
 1審は,本件ファンドは実体があるかのようにいい,請求を棄却していました(説明義務違反は肯定し,勧誘者であるTの責任のみ認容)。
 そこで,控訴理由では,「金融商品まがい取引」とはなんぞやということを大展開しました。
 控訴審判決は,本件ファンドの投機性,OCSの実態(実質的に支配しているのはSであること),東プリに対する関東財務局の検査結果などによれば各ファンドごとの損益状況の把握が困難な状態に置かれていること,運用されていたとすれば作成されているはずの資料が提出されていないこと,等の事実を認定し,
 「上記ウないしオの事実からすれば,本件各ファンドは,出資者から集められた金員が外国債券の購入などによって運用されている事実自体確証がなく,仮に当該事実が認められるとしても,投資を行うものに適正に損益を帰属させることを目標として,組成され,管理されていたのではなく,出資者から申込手数料や管理報酬等の名目で金員を徴取してOCS関係者において利を図ることを意図して組成され,運用された,投資を行うものの利益を損なう金融商品として不適正なものであったと認めるのが相当である。そうすると,控訴人らのいうように,控訴人らが出資した本件各ファンドは,預け資産の流れもリスクの具体的な内容も明らかではない金融商品まがいの商品であったと断ぜざるを得ない。」と言い切ってくれました。
 「金融商品まがいの商品」。この言葉が高裁の判決書で用いられるとは!
 続けて判決は,SはOCSに対する支配やTの退社後の販売行為への関与を否定するが,東プリの支配状況,東プリとOCSの関係,資金の流れ,Tの新会社設立へのSら東プリ関係者の関与,新会社における営業素材の提供状況,OCSへの送金への関与状況などからして,Tが退職したとする平成19年10月の前後を問わず,関係者は一体となってSが主導する形で本件販売行為を行っていた,と認定しました。
 完勝といって良いです。原判決がぺらぺらだっただけに不安もありましたが,こういう控訴審判決を書いてくれるという期待もありました。こういう判決を手にする瞬間が,力を入れて控訴理由書を書き上げた苦労が報われたと思う,弁護士冥利に尽きる瞬間の一つです。

 二つ目。
 これも東京高判平成23年12月7日
 ファンドシステムというFXで運用するという預り商法。被控訴人はその事務担当従業員2人。1審は全部棄却,高裁は立証が比較的うまくできた一人(A)について請求を認容(過失相殺3割は,幇助責任を肯定することへの躊躇のなせるところでしょうか。やむを得ないと思います)。
 Aは,取引の計算書の作成,取引報告メールの送信,顧客との入出金,海外のFX業者への送金,会計事務所とのやりとり,口座の管理などをしていました。1審は「首謀者であるIが正当な取引を装っており,不法性は外形上明らかでなく,従業員には分らなかった」「Aの業務は幇助とも認められない」などとして請求を棄却していました。
 控訴審判決は,大規模な騙取行為はAの上記業務行為があって初めて可能であったというべきであり,Iを幇助する者であることは明らかであるとした上,
 故意・過失について,
 相当期間自転車操業をしていて,Iも年の半分くらいは給料を取らないようになっていた,つまり経営が悪化していたことを認識していたのに,顧客に対する報告書には利益が出た報告しかなされていないことに気付いていたから,報告が虚偽であることを認識し得た,預り残高が100億円を超える規模になっていると推認され,取引報告書を作成していたAは顧客に返還しなければならない預り残高の規模を把握していたと推認されるが,Aは自らが管理する口座のいずれにも10億円以上の残高があることを見たことがなく,出資金を返還できない可能性について認識し得た,Iから渡されたメモのとおりに全顧客について預り高に応じて取引がなされたとすれば,1600億円以上の規模のFX取引をしていたことになるが,そんな取引が実際に行われ,さらには報告書に記載されていない取引までされていたなどと認識していたとは考え難い,要するに,顧客に対する報告が虚偽であり,出資金を返還できない状態にあることを認識し得たというべきであるから,Aの幇助行為には過失があったものと認められ,民法719条2項に基づく責任を負う,としました。
 この判決は,過失による幇助を肯定する珍しい例であると思います。しかし,さすがに100億円規模の詐欺商法は一人では完遂できない。従業員らにも応分の責任が問われなければならないと考えていましたが,それには過失による幇助とでもしなければしっくり来ない感じがして,そういう構成でやりました。
 総額7000万円を超える被害でしたが,進行協議期日での高裁の和解勧告は50万円でどうか,というものでした。いや,それはかわいそうだと思う,もう一度書面を書くからもう一度考えて頂けないか,と食い下がり,1審で行った尋問を再度控訴審でもやり(裁判長から怒られましたが,大事なところだからもう一回聞かせて下さいと頼みました。),弁論終結時の反応も「プイ」とした感じでしたので(これは思い過ごしかも知れませんけれども),正直,これはもうあかんのやろうなぁ,と思っていました。いや,分ってもらえて,嬉しいです。
 奇しくも昨日の2つの高裁判決は口頭弁論終結の日が同じであり,10月26日という,私の結婚記念日でした(1026→テンツロー→哲朗。)。記念日であることを裁判官に告げて記念日判決?をもらおうかという姑息な考えも頭をよぎりましたが,姑息にもならないほどに無意味なことであると思い至り,止めておきました。