レバレッジリスク

最近は,近々発売になる「Q&A 投資取引被害救済の実務」(日本加除出版)という本(当事務所の所属弁護士による共同執筆)の執筆を,時間を見つけては行っています。

今回は,その本の中で自分が担当の部分の内容を,少し紹介しようと思います。

皆さんは,レバレッジリスクという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
レバレッジとは,「てこ」という意味で,投資取引においてレバレッジの効いた取引とは,少額の資金で,その何倍もの取引をできる取引のことをいいます。
そして,レバレッジリスクとは,文字通りレバレッジ取引に伴うリスクのことです。

では,実際にレバレッジリスクが問題となった事案を見て,問題点を考えてみることにしましょう。

【事案】 ※事案を単純化するために,実際の事案と事情を変えています。
 Aさんは,ある日,証券会社の従業員から,不動産に投資するファンドがあるので購入しないかとの勧誘を受けました。その際,従業員からは,「元本保証ではないので,元本割れする可能性はありますが,投資の対象が不動産ですから,仮に不動産の値段が下がっても,不動産がなくなることはないですから,大きな損害が出ることはないと思います。」などと言われ,Aさんは,安定しているファンドならと思い,500万円分を出資することにしました。

 Aさんがこの不動産ファンドに出資した後,リーマンショクなどで不動産の価格が値下がりし始め,おおよそファンドを購入した当時の80%まで不動産価格が下がりました。Aさんは投資は失敗したと思いましたが,500万円の80%だから400万円くらいは帰ってくると思っていました。

 しかしながら,満期償還の日,証券会社から,「申し訳ありませんが,償還額は0円です。」と伝えられました。

【問題点】
 本件では,不動産価格は20%しか下落していないのに,償還額が0円になってしまっています。
 どうしてこのようなことが起こってしまったのでしょうか。

 問題は,このファンドのお金の集め方とその返済方法の特約にありました。

 このファンドの組成に当たっては,一般投資家から集めた出資金が全体の20%にすぎませんでした。
 その余の80%は,金融機関かららの借入金でまかなっており,その上,一般投資家の出資金の返還よりも金融機関への返還を優先させるという特約がされていました。
 つまり,不動産の価格が80%以下に下落してしまうと,その全額が金融機関への借入の返済に優先的に充てられてしまうため,ファンドにお金は全く残らなくなってしまい,出資者へは1円も償還されない仕組みになっていたのです。

 仮に,不動産価格が10%しか下落しなくても,80%分のお金は金融機関に優先的に返済され,残りの10%を出資者で分けることになり,20%分の持分をもつ人が,10%分のお金を分けるわけですから,償還を受けるのは半額の50%ととなり,10%の不動産価格の下落で,50%の損失を被ることになります。

 一方で,不動産価格が10%上昇した場合には,80%分のお金がまず金融機関に優先的に返済されるのは同じで,20%に値上がり益の10%を加えた30%分のお金を出資者で分けることになり,20%分の持分をもつ人が,30%分のお金を分けるわけですから,償還を受けるのは1.5倍の150%ととなり,10%の不動産価格の上昇で,50%の利益を得ることになります

 これは投資金額の5倍の運用ができるということを意味し,5倍のレバレッジがきいているファンドということになり,5倍のレバレッジリスクを負っているということになります。 このような仕組みが,不動産価格が20%下落しただけにもかかわらず,償還額が0円になってしまったからくりでした。
 
 不動産というと,皆さんはどのような印象をお持ちでしょうか?
 比較的安定した資産であるという印象を抱きがちなのではないでしょうか。
 不動産のファンドなら,大きな元本割れは生じない,ましてや償還額が0円になるなんてことはありえない,そういう印象を持っている方も多いのではないでしょうか?
 それはそれで決して間違った印象ではないのですが,不動産も金融商品に仕立てられると,たちまちリスクの高い投資になってしまうという良い例(悪質な例)ではないでしょうか。

 このファンドについては,販売・勧誘する業者は,レバレッジリスクについて十分な説明をすることが求められるといえます。
 
 この事案については,実際に裁判になっており,大阪地判平成22年10月28日(判例タイムズ1349号157頁等)は,本件ファンドの勧誘に際しては,レバレッジリスク,すなわち,不動産が値下がりしたときはリスクが極端に増幅されること,具体的な程度として,「投資対象の不動産が1割値下がりすると,出資金は約半分になること」,あるいは,「不動産が2割値下がりすると,出資金はほとんど0円になる可能性があること」を説明するとともに,その理由として,本件ファンドの仕組みについて,「銀行借入によるレバレッジがかかるため,リターンが大きくなる反面,リスクも増幅されるということ」を十分に説明すべき義務があったのに,これに違反した勧誘が行われたことを認めて,説明義務違反を肯定しました。