・弁護士を選ぶことは,素人には適切にはできない
弁護士の選び方,と題しておいていきなりそれは無理,という始まりで拍子抜けかも知れませんが,しかし,まずはこのことを頭に入れておくべきでしょう。弁護士は,職人的な仕事であり,専門性が高く,その業務の内容や評価も普通の人には適切になしうるものではありません。お医者さんの本当の「技術」などが,外部からはなかなか知る術がないのと共通するところがあります。しかし,弁護士に相談し,委任するということは,お医者さんの例でいうと,大手術を行うというほどの,人生の一大事でしょうから,できる限り適切に弁護士を選びたいと考えるのは当たり前のことです。
現状では,弁護士が直接対応してくれるかとか,契約書を作ってくれるかとか,費用の説明をしてくれるかとか,一部の悪質な弁護士を排除するための情報や考えなどは提供されているように思いますが,より突っ込んだ話はなかなかされていないように感じます。そこで,必死に弁護士選びをするときに,こういう観点から見ればいいのではないかというところを,少しでもご参考になることがあればと思い,紹介することにします。あくまで私見ですが,普通の弁護士にとっては,あまり異論のないところだと思います。
・弁護士の能力は,何によって推し量れるか
能力の高い弁護士に依頼したいと思うのは当然のことだと思います(もっとも,「能力」というのも多義的でしょうけれども)。しかし,これは外部からはなかなか分かるものではありません。年齢などによって能力が高くなっていくわけでも必ずしもないし,司法試験の成績が良かったからといって(そもそも外部からこれを知ることは通常できませんが)必ずしも実務家としての能力が高いわけでもないでしょう。
経歴や実績は,適正な情報を入手することも必ずしも容易ではありませんが,できる限り詳細に見てみるのが良いと思います。
弁護士会の役職に就いていたり,公職に就いていたりというのは,弁護士の能力とはあまり関係ないように思います。自己紹介の一つ程度に見ておくべきものでしょう。
書籍を執筆していたり,論文を書いていたりというのは,一定の実績があるからこそそのような執筆を依頼されるのでしょうから,一定の判断基準になるでしょう。しかし,一般人向けの書籍などは,誰にでも書けるものが多く,あまり専門性の評価に繋げるべきではないように思います。弁護士など専門家に向けた書籍等を執筆している場合には,それは弁護士の中でもその分野に詳しいということが推測されます。ただし,専門家に向けた書籍や論文を書いている→当該分野についての知見・見識が高いということはいえるでしょうけれども,このことは,必ずしも当該分野の「紛争を解決する能力」が高いということまでもを担保してくれるものではないという難しさがあります。本を書いている暇があったら準備書面(裁判所に提出する書面)を起案するという弁護士の方が,頼もしくも感じますね。
講義・講演は,その対象や頻度を併せてみれば,その分野に詳しいということが弁護士らによって評価されている程度が分かりますから,参考になるでしょう。マスコミに多くコメントを求められているということも同様だと思います。しかし,これも,当該分野についての知見・見識が高いということはいえるでしょうけれども,このことは,必ずしも当該分野の「紛争を解決する能力」が高いということまでもを担保してくれるものではないという難しさがあります。
過去に取り扱った裁判例などは,一定の指標になるでしょう。裁判例は,過去に実際に裁判官を説得してきたということですから,実践的能力をより強く推測させるものでもあります。しかし,弁護士であれば判決を得るなどは日常業務ですから,その内容や弁護士や裁判実務の中での取り扱われ方を併せてみる必要があります。勝った勝ったといっても,単純な事件や欠席判決などでは,能力を推し量ることは全くできません。
・「専門性」はどうやって推し量れるか,弁護士を選ぶに当たって「専門性」はどの程度重視するべきか
ある問題に直面したとき,その分野について「専門性」を備えた弁護士に依頼したいと考えることは十分に理解できます。当該紛争類型の問題点を直ちに把握し,勘所を押さえた適切な対応が可能となるだろうと期待できます。これを推し量る方法は上記の「能力」の推測の方法と同様ですが,しかし,外部から判断することはやはり限界があることは否めません。
最も良いのは,弁護士に聞くことです。この分野に強い先生は誰ですか,と。しかし,きちんと正しい情報を教えてくれるとは限りませんよね。
夥しい事件数を掲げて「実績」と証している弁護士や法律事務所は,避けるのが賢明であるように思います。弁護士の仕事は職人仕事であり,事案に応じてオーダーメイドで対応していかなければなりません。尋常でない件数の「相談件数」などを掲げているのは,機械的処理によって弁護士としての本来的な取り組みの姿勢を持っていないからなのではないかと,私は感じます。
さて,「専門性」は,重視したい気持ちは分かりますが,これのみに拘泥しすぎるのは正しくありません。弁護士は,その程度の差はあれ,みな,「法律・法的手続の専門家」なのですから,特定の分野について強いことがその弁護士の能力等を決めるものではありませんし,良い解決を導いてくれるのは,経験や能力以外の要素であることも多くあります。私も,今は先物取引被害をはじめとした金融商品取引の問題や債権回収については一定の知識・経験を持っていると思っていますが,弁護士になって1か月目に担当して右も左も分からない状態から取り組んだ先物取引被害事案は,今から考えても,良い解決になったと思っています。若者の持つ「熱意」は,「専門性」を凌駕することもしばしばあるでしょう。
そして,通常の交通事故などの民事事件,刑事事件,離婚や遺産分割などの家族関係関連事件,労働紛争,借金問題などは,いうなれば,「弁護士であれば誰でもでき,意欲的に取り組んでもらうことの方が大切」だと思います。
・弁護士の「弁護士としての姿勢」「意欲的に取り組んでくれるか」は,どうやって推し量れるか
意欲的になって頂けますか,と直接聞いてみるのも良いでしょうが,その答えがどうであれ,それだけでは本当のところは分かりませんよね。
弁護士と一定の関係を有している人の紹介があれば,紹介者がない場合に比べて意欲的に取り組んでくれるのではないかという考えは,理解できないではないですが,あまり関係ありません。多少は紹介者との関係を私も気にはしますけれども,むしろ,紹介者のあるなしで対応が変わる弁護士なら,私ならあまり信用できないな,と感じます。
事務所の規模も,あまり「弁護士としての姿勢」には関係がないように思います。一人で事務所を開いておられる先生の中にも,弁護士として尊敬できる先生は,たくさん,たくさんおられます。
「敷居が高い弁護士」や「プライドが高そうな弁護士」は程度の問題はありますが,別に悪いものではありません。質問に適切な応答がないなどということになれば論外ですが,多忙なはずの弁護士が何の敷居の高さも感じさせないと,それはそれで,大丈夫かな,と私は感じると思います。「弁護士はサービス業だということを分かっていない弁護士はだめだ」という話には私はついて行けません。裁判所も法的サービスの提供者ですが,「被告のお客様,ご着席下さいませ」などとは言いません。弁護士の仕事は全人格を賭けてする職人仕事ですから,「短期的に迎合的な姿勢を採る」という意味であれば,サービス業ではありません。法的サービスを提供する業務であることは間違いありませんが,依頼者のための最善とは何か,最善に近づくためには何をするべきかを,専門的な立場から,多角的に考え,普通の人には分からないような部分(手続の過程においては,一般の人には分からないけれども,依頼者に有利になるような手当をするべき事柄は,実に,実にたくさんあります。)にも様々な配意を欠かさない,というのが,弁護士の仕事です。
熱意や意欲は,そうしたことをしてくれるか(してくれそうか)という観点から,もはや,相談者の側の全人格を賭けて「人を見る目」を傾注させるしか方法はないのではないでしょうか。
・弁護士に委任することの費用対効果,弁護士費用は低廉であるにこしたことはないが…
弁護士費用は安いに越したことはありません。しかし,弁護士に委任しようというのは,人生の一大事です。安かろう悪かろうでは本末転倒です。1000万円の請求権があって,1000万円が回収できれば,2割の費用を要しても,800万円の実益がありますが,300万円しか回収できなければ,費用が1割であるとしても,270万円しか実益がないということになるという,簡単な話です。
また,表面上低廉な費用を喧伝していても,実際にはなんだかんだで費用がかさむということもあり得ます。きちんとした契約書を作成しておくことは不可欠です。ただ,費用対効果を考えて手続の取捨選択をするというのも弁護士の仕事であり,費用対効果を考えてもらうのも弁護士に委任する大きなメリットですから,お金の問題で信頼関係が損なわれるようでは,悲しいことです。
着手金があまりに高いというのはなしでしょうが,完全成功報酬制で良いという法律事務所の中でも,簡単なものだけそうするということであれば,弁護士と一般の人の情報の格差を利用して弁護士が不適切な費用を徴収しているとの非難も当たり得ます。他人である弁護士に専門的な手続を依頼する以上,本来は,しかるべき支払をして着手してもらうのが筋だと思います。いずれにしても,お金の問題は本当に難しいですね。
・(弁護士の選び方についての一応の)結論
以上のような事柄を踏まえた上で,私としての結論は,やはり,相談者自らが複数の弁護士に直接会うことだと思います。難しいことは分からなくても,弁護士の応答の適切さなどは何となく分かるでしょうし,法律事務所の持つ,「空気感」のようなものも感じ取ることができるでしょう。多くの法律事務所への立ち入り調査などをしてきた経験から言えば,あまり良くない法律事務所は,弁護士だけではなく,事務職員もなんだか清廉な空気感を失っているように感じられることが多かったように思います。
要するに,ご自身の「人を見る目」に最後は頼るしかありません。そして,その「目」をより正確なものとするためには,時間も限られているでしょうけれども,複数の法律事務所・弁護士に赴かれることをぜひ,お勧めします。
この文章の表題を「弁護士の選び方」(弁護士の探し方ではなく)としたのは,この趣旨です。