(続き)
民事保全手続は,民事訴訟の本案の権利の実現を保全するため(民事保全法1条),すなわち,民事訴訟の本案の権利の実現が不能若しくは困難となることを防止するために,債務者の財産を現状のまま凍結することを目的とするものであって,金銭の支払を目的とする債権について,強制執行をすることができなくなるおそれ又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがある場合に発することができるものとされている(同法20条1項)のであって,民事執行法上の手当が有効に機能しないときには権利保護の必要性(保全の必要性)があるというべきである。
無剰余取消について民事執行法上の手当が一応存在することと,民事保全法上の保全の必要性は,決して併存し得ないものではなく,前者は,後者の要件を満たすか否かに当たって考慮するべき一要素に過ぎず,前者が存在するけれどもその実情からして後者が肯定される場合には,保全の必要性に欠けるところがないというべきであり,これを否定する根拠は,現行法上どこにも見いだし得ない。
本論点は,大いに議論されるべき,大切な論点であると思う。最高裁判所の熟した判断を期待したい。