企業・団体を倒産にまで追い込む為替デリバティブ(通貨オプション)

 為替デリバティブという取引が大きな問題になっている。特に,金融商品取引法が施行された平成19年9月までの2,3年の間に締結された契約に問題が顕著である。
 契約内容を概観するのみでも,この取引が,為替変動に関するリスクを低減させる機能を合理的に備えないで,通常の企業が負う必要のない経済的破綻のリスクを一方的に負わせられるものであることが見えてくる。
 ノックアウト条項が付いているから利益(ヘッジの効果)は限定され,そのノックアウト条件に達したかどうかの判断権は,専ら,利害を対立させる相対取引の一方当事者である銀行等の金融機関にあり,売買が成立することになる条件であるトリガー価格と大きく離れたレートを行使価格とされるいわゆるギャップレートが設定され,プットオプションの売り取引に大きな比重が置かれるレシオ設定がされるなどして,損失は一気に拡大する仕組みになっている。
 そして,そのような取引が過大に,集中して,短期間の間に契約され,しかもその拘束期間は,合理的に為替変動を予測しうる範囲を超え,通常の企業が為替変動を予測しなければならない期間をも明らかに超えているのである。
 あえて誤解を恐れずに言えば,このような設計の金融商品を契約させるには,何かの嘘をつくか,何か伝えなければならない大事なことを伝えないか,合理的な経済判断をなしえない状況に乗じるか,いずれにせよ金融機関が何らかの違法を冒すことが不可避ではないかと思える。
 このような金融商品取引によって,健全な企業・団体が消滅していくとすれば,その社会的損失は計り知れない。(荒井哲朗)