私法判例リマークス43号(日本評論社)で,私が担当した東京高判平成21年12月25日(判タ1329号263頁)について酒井博行准教授が判例解説をしておられた。同判決については法学セミナー673号で上田竹志准教授も解説をしておられるところであり,実務家のみならず研究者の間でも関心が高いことがうかがわれる。しかしながら,これら判例解説にも,被告の最後の住所地等が記載されれていない債務名義によって,どのように強制執行手続を行うべきかは,検討が尽くされているとはいえない。
そこで,この点について何回かに分けて考えてみることにしたい。
問題は,訴状等の公示送達による送達を経て,被告の最後の住所地が不明である判決がなされた場合であって,後に被告の住所地が判明した場合に,如何にして判決と強制執行手続を連結させるべきかという,これまで正面から議論されてこなかったものである。
このような場合には,執行裁判所が債務名義に記載された被告と強制執行手続における債務者の同一性を判断して強制執行手続の許否を決する,本案裁判所が判決に記載された被告と後に住所地が判明した被告の同一性を判断してこれが肯定される場合には更正決定をする,本案裁判所が判決に記載された被告と後に住所地が判明した被告の同一性を判断してこれが肯定される場合には新たに判明した住所地を付記した執行文を付与するが,その手続を執行文付与の申立てによってする,本案裁判所が判決に記載された被告と後に住所地が判明した被告の同一性を判断してこれが肯定される場合には新たに判明した住所地を付記した執行文を付与するが,その手続を執行文付与の訴えによってする,新たに住所地が判明した者に対する新たな訴えの提起による,という5つの方法(のいずれか1つまたは複数の方法が選択的に採りうるものとされること)が考えられるのではないか。(続く)(荒井哲朗)
追記:なお,この点については平成23年11月21日に東京地裁で興味深い判決を得ている。
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