判決報告(アーバンコーポレイション旧役員らに対する損害賠償請求訴訟)

 新聞・インターネット,テレビなどで,速報されていますのでご存じの方も多いと思いますが,本日,株式会社アーバンコーポレイションの旧役員らに対する損害賠償請求訴訟の判決の言渡し(東京地方裁判所民事第4部合議:裁判長太田晃詳,裁判官竹内幸信,裁判官池田知子)がありました。
 私はこの事件の弁護団の代表を務めさせていただいておりますので,今日まで落ち着かない日を過ごしてきましたが,ようやく判決がでましたので,報告します。
 事案の概要等は,弁護団のHP(http://www.urban-higaibengodan.com/index.html)を参照して下さい。
 結論は,損害額を推定金額132.72円の約3割にあたる1株あたり40円と算定し(但し,購入金額と売却額の差額が1株あたり40円以下であればその額として算定し),これに該当株式数を乗じ,この金額の1割に当たる額を弁護士費用相当損害金として加算して賠償を命じるというものです(実損害額合計8億7658万3800円のうち,認容額合計は3億3032万3180円であり,これに今年の8月13日までとして遅延損害金を計算して加えると3億9638万7816円となりますので,実損害額の約45%の認容ということになります)。判決の概要は下記のとおりです。
 請求が一部認容されたこと自体には一定の評価をしていますが,大きな減額がされたことは残念であり,かつ,本件虚偽記載と民事再生の申立との関係を切り離して考えているところは事案を正解していないというほかはないと考えます。民事再生の申立は虚偽記載の公表により,隠蔽しようとしていたアーバン社の「資金調達能力の減退ないし欠如」が顕在することとなるため,経営を続けることが不可能であると判断したからであって,民事再生の申立の原因はまさに本件虚偽記載が隠蔽しようとしていた事情なのですから,虚偽記載と民事再生の申立は一体のものと評価すべきであり,これを別個のものと考え,民事再生の申立による下落を観念して損害から控除することは,経済の実態を見ないものであるというほかありません。
<判決の概要>
 1 本件臨時報告書,有価証券報告書について虚偽記載等があったとした(これは従来の査定異議訴訟の判決群が例外なく指摘するところである)。
 2 被告らの内,本件虚偽記載の準備に関わっていた代表者の房園氏,管理部門管掌の取締役副社長であった川上氏,財務部担当取締役であった宮地氏,取締役経営企画部長であった嘉本氏について,臨時報告書等の虚偽記載等にあたって,顧問弁護士から,「投資家・株主に誤解を与えるおそれがある」ことを指摘されていたなどとして「記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず,かつ,相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかった」とは言えないとし,
 その余の取締役会出席役員(取締役副社長西村氏,常務取締役松崎氏,取締役田氏,監査役村上氏)について,平成20年6月26日に開かれた取締役会で初めて本件スワップ取引等を知ったものだが,「取締役は,取締役会を通じて,会社の業務執行全般を監視する職務を負っているものであるから,取締役会の付議事項及びこれと密接に関連し会社関係者の重要な利害に係る事項については,広く監視義務を負うと解するのが相当である。本件取締役会では,第1号議案が本件新株予約権付社債の発行,第2号議案がその買取契約の締結,第3号議案が本件スワップ契約の締結であり,第1号ないし第3号議案を通してみると,本件取引を行うべきかどうかが本件取締役会の議題であったということができる。そして,本件臨時報告書の資金使途の項に本件スワップ契約の締結を含めて本件取引の概要を記載するかどうかは,付議事項である本件取引の実行と密接に関連する事項である上,アーバン社の利害関係人が投融資等に関する合理的な判断を行うに当たって影響を与える重要な情報であったのであるから,取締役会出席役員としては,本件臨時報告書の資金使途の記載が適正に行われているかどうかについて,取締役会での審議を通じて,監視を行うべき立場にあったというべきである。本件取締役会では,現実には本件臨時報告書の内容について一切触れられず,その内容を記載した資料等も配布されていなかったが,弁護士が作成したひな型をそのまま用いた本件取締役会の議事録には,議長は「本新株予約権付社債の発行について大要別紙2のとおりの臨時報告書を提出したい旨」を提案し,賛否につき議案を諮ったところ,全員異議なくこれを承認可決したと記載されているのであって,このようなひな型が存在して現にアーバン社において使用されていたという事実は,本件取締役会において臨時報告書の記載内容も十分審議されるべきであったとの考え方を裏付けるものであったということができる」,として賠償責任を負うとし,
 臨時報告書等の作成にも関与せず,株主総会のリハーサルなどのために取締役会に出席していなかったその余の役員ら6名については虚偽記載等を相当な注意を用いても知ることができなかった,として賠償責任を否定した。
 3 1株あたりの損害を民訴法248条(損害の算定が困難なときに裁判所が相当な損害額を認定できるとする規定)に拠りながらも金商法21条の2第2項を参考にしてひとまず132.72円と算出し,虚偽記載の有無にかかわらず民事再生手続開始の申立は株価の下落をもたらす要因であるからこれによる下落分を控除するべきであるとして,損害額を上記の約3割にあたる1株あたり40円と算定し,これに該当株式数を乗じ,弁護士費用相当損害金1割を加した額の賠償を命じた。

 査定異議訴訟については,損害全額を認めるものから1割強しか認めないもの(6月7日の査定異議集団訴訟判決は独特の計算過程を経て取得額(推定額でも売却額を控除した取引損金でもなく)の11.41%にまで減額しています)まで判断が分かれており,百花繚乱の様相を呈していますが,再生債権の査定はそのまま被害回復に結びつくものではなく(200万円を超える債権は17%しか配当されない。),対役員訴訟の帰趨が当弁護団及び被害者らの最大の関心事でした(もっとも,下記の東京高判平成24年3月29日など,説得的で「熱い」判断を明示している裁判例もあり,今後の同種被害救済実務には大いに参考になるものと思われます。)。

 判決PDFを,参考判決(東京高判平成24年3月29日)とともに弁護団のHPにUPしておきます。どちらが説得的であるか,是非読み比べていただきたいと思います。