1.アトランティック・ファイナンシャル・コーポレーション

(東京地方裁判所平成20年7月16日判決)

 システムトラブルによりロスカット・ルールが発動されなかった事案について,FX取引におけるロスカット・ルールの適切な発動は業者の顧客に対する義務であり,そのためにFX取引において起こりうる様々な事態に十分対応できるようシステムを用意しておかなければならないとしてロスカット・ルールが適切に発動されていれば確保されていたであろう証拠金の賠償を命じた事例

 FX取引におけるシステムの構築,ロスカット・ルールの発動に関する業者の義務についての初判断。判示事項は以下のとおり。
「本件取引は,必要証拠金額が原告の建玉の総額の1パーセント相当額に設定されていることから,原告が預託した証拠金の100倍相当額の建玉を運用することを可能とするものであり,為替レートの変動によっては,原告に瞬時にして莫大な損失を与える危険性を有することに照らせば,上記のロスカット・ルールの顧客を保護する機能は,本件取引において,極めて重要な役割を担っていたということができる。」
  「(被告会社が交付した文書,インターネット上の比較サイトの記載,顧客が取引相手を選択する上で重要な関心事になっていること,などに照らして)原告のロスカット・ルールへの期待は合理的なものとして法的な保護に値するということができるから,被告は,有効証拠金額が維持証拠金額を割り込んだときにロスカット手続に着手しなければならない義務を負っていたと解するのが相当である。」
 取引要綱に「できる」という文言を用いてロスカット・ルールの記載があったとしても,ロスカット手続に着手するかどうかを被告が自由に判断できると解するのは相当ではない。
 「(被告会社の)コンピューターの不具合は,同システムの通信回線の使用量がその容量を上回ったこと,そのためサーバーに負担がかかったことを原因とするものであり,前記(1)で説示した同システムの内容,顧客の注文に必要とされる通信量,被告との間で外国為替証拠金取引を行っていた顧客及び取引口座の数,被告は,本件ロスカット時の前後の時期に複数回にわたり,同システムの能力不足に起因して,顧客との取引に障害を起こしていたこと,被告が,本件ロスカット時の後,上記障害への対策として,通信回線及びデータベースサーバーについて大規模な増強をしたことにかんがみれば,被告が本件ロスカット時において用意していたコンピューターシステムは,その取引環境に照らして,不十分なものであったといわざるを得ない。」

 被告の約款ではコンピューターシステムの故障などにより生じた損害についての免責規定があるが,消費者契約法8条1項1号,同項3号に照らせば,「被告とヘッジ先とのカバー取引が被告の責に帰すべき事由により成立しない場合にまで,原告と被告との売買が成立しないことについて被告を免責する規定であるとは解し得ない。」
 「ロスカット手続は,有効証拠金額があらかじめ決められた所定の水準まで減少するという条件が成就した場合に発動する手続であって,そもそも大きな為替相場の変動とそれによる混乱の発生を予定している仕組みである上,原告が預託した証拠金よりはるかに多額の建玉の運用を可能とし,極めて危険性の高い本件取引において,ロスカット・ルールは顧客の損失の拡大を防止し顧客を保護するいわば安全弁としての機能を有するものであることからすれば,外国為替証拠金取引業者である被告は,真に予測不可能なものを除いて,同取引において起こり得る様々な事態に十分対応できるよう,ロスカット手続のためのシステムを用意しておかなければならないというべきである。」

 よって,被告の債務不履行がなく,ロスカット手続が行われた場合の想定価格での差損益との差額は,不法行為または債務不履行による損害であり,業者にはこれを賠償しなければならない。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(業者控訴,和解)
⇒先物取引裁判例集52巻366頁
⇒消費者法ニュース78号285頁
⇒金融法務事情1871号51頁
⇒国民生活センター「消費者問題の判例集」
⇒金融商品取引法判例百選68頁

1.アトランティック・ファイナンシャル・コーポレーション
(東京地方裁判所平成20年7月16日判決)
ロスカット・ルールに関する重要な初判断 2.ワイジェイFX(旧サイバーエージェントFX)
(東京地方裁判所平成26年6月19日判決)
強制解約・キャッシュバック金の不払いに関する初判断 3.アルファエフエックス
(東京地方裁判所平成22年4月19日判決)
区分管理を怠った業者の役員らの責任に関する判決 4.幸せwin,大橋ひかる,マネースクウェアジャパン
(東京地方裁判所平成20年10月16日判決)
アフィリエイトに関して,FX業者の責任も肯定したもの 5.コメックス
(東京地方裁判所平成22年5月25日判決)
認知障害により取引状況などを再現できない事案において参考になる 6.シー・エフ・ディー
(東京地方裁判所平成18年4月11日判決,東京高等裁判所平成18年9月21日判決)
私的差金決済契約の違法性を初めて正面から認めた東京高裁の判断 7.リベラインベスティメント
(東京地方裁判所平成24年2月24日判決)
関連会社への資金流用などに関するもの 8.東京シティホールディング
(東京地方裁判所平成19年1月30日判決)
FX業者の区分管理責任に関するもの 9.ハーベスト・フューチャーズ
(東京地方裁判所平成17年7月12日判決)
公設の先物業者が行っていた外国為替証拠金取引について取引自体を違法であると判断したもの 10.日本エフエックス
(東京高等裁判所平成18年11月29日判決,東京地方裁判所平成18年6月8日判決)
外国為替証拠金取引業者の区分管理の義務,小会社の監査役にも責任を認めたもの 11.ICC,インターナショナル・カーレンシー・チェンジャーズ
(東京地方裁判所平成17年10月17日判決,東京地方裁判所平成18年4月27日判決)
かつての外国為替証拠金取引商法被害事案 12.キャピタルベネフィット
(東京地方裁判所平成17年11月11日判決)
かつての外国為替証拠金取引商法の仕組み自体の違法性を早い時期に指摘したもの 13.リベラインベスティメント
(東京地方裁判所平成17年2月1日判決)
外国為替証拠金取引業者が清算金の返還すら拒んだ事例 14.サンワ・トラスト
(東京地方裁判所平成18年1月24日判決,東京地方裁判所平成18年8月30日判決)
後付けで取引をした外観を作出して金銭を騙取するという著しく悪質な事案。和解合意の効力について「権利の濫用」を理由に否定している珍しい例 15.日本エフエックス
(東京地方裁判所平成19年1月24日判決)
外国為替証拠金取引の取引自体の違法性を端的に指摘するもの 16.アイ・エス・テクノロジーほか(121ファンド関係)
(1事件:東京地方裁判所平成25年11月13日判決,東京高等裁判所平成26年7月10日判決,2事件:東京高等裁判所平成26年9月17日判決,東京地方裁判所平成25年11月28日判決)
収納代行業者であると強弁した業者や,詐欺商法のナンバー2の地位にあった者の責任を正しく指摘するもの 17.有限会社リンク(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成24年4月23日判決)
中間代理店の過失を取引の荒唐無稽さから導いたもの 18.エイ,Truth Company(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成25年1月21日判決)
121ファンド商法の主要な代理店であった業者らの責任 19.エスペイ(121ファンド関係)
(東京高等裁判所平成24年12月20日判決,東京地方裁判所平成24年6月22日判決)
過失相殺をした1審の判決を取り消した控訴審判決