4.幸せwin,大橋ひかる,マネースクウェアジャパン

(東京地方裁判所平成20年10月16日判決)

 「100%の勝率で毎月25%以上の利益を得ていく方法」などと喧伝されていた「FX常勝バイブル」という情報商材の頒布者とこれにより顧客獲得をしていたインターネット専業FX取引業者の損害賠償責任を肯定した事案。

 通称名「大橋ひかる」を名乗る者が「100%の勝率で毎月25%以上の利益を得ていく方法」であるなどと喧伝して「FX常勝バイブル」という情報商材を頒布し,「FX常勝バイブル」では,株式会社マネースクウェア・ジャパンというFX業者(上場会社である)で口座を開くことが推奨されており,大橋とマネースクウェアとの間では,FX常勝バイブルを経由して口座開設等がなされたときには報酬が支払われることになっていた(いわゆるアフィリエイト契約)。
 判決は,大橋(及び同人が実質的に首謀者であった幸せwin株式会社)は,FXで「100%の勝率」などということは あり得ないのに(実際も現に損失が出ている),誤った情報を提供して原告に取引をさせたのだから,不法行為責任を負う,マネースクウェアは,上記を顧客獲得の手段としていたのだからFXに関する誤った理解をして口座開設を申し込む者がある可能性を認識していたはずであり,そうでなくとも認識すべきであり,それを前提に適合性審査をするべきであるのにそれをせずに取引を開始させたのであり,この顧客獲得行為自体が違法である,と判示した。取引業者における適合性審査の杜撰さも指摘されている。

 金融商品取引法によって不招請勧誘が禁止されている相対FX取引について,インターネット上のバナー広告などが氾濫している。これにより副業収入を得ようとする行為(いわゆるアフィリエイト)も盛んになされている。アフィリエイトを行おうとする側はより目を引く方法で一般のインターネット閲覧者の注意を集めたいだろうし,FX業者側も,多少強引な経路をたどってきた者であっても口座を開設してもらいたいという動機が生じることはやはり否定しがたい。現在も,そして今後も本件同種の問題は起こりうる。
 本判決は,FX業者が直接に開設したHP等においてでなく,顧客誘引を委託した相手が行った「顧客誘引活動」についても,関与の態様によっては取引業者の顧客獲得行為の問題となる場合があることを示し(この点を指摘する初めての判決であると思われる。),取引による損害の賠償を命じたものであり興味深い。

判決PDFAdobe_PDF_Icon1.svg(業者控訴,被害者附帯控訴,和解)
⇒先物取引裁判例集53巻352頁
⇒消費者法ニュース78号275頁
⇒金融・商事判例金融SUPPLEMENTVol.3No.1
⇒国民生活センター「消費者問題の判例集」

1.アトランティック・ファイナンシャル・コーポレーション
(東京地方裁判所平成20年7月16日判決)
ロスカット・ルールに関する重要な初判断 2.ワイジェイFX(旧サイバーエージェントFX)
(東京地方裁判所平成26年6月19日判決)
強制解約・キャッシュバック金の不払いに関する初判断 3.アルファエフエックス
(東京地方裁判所平成22年4月19日判決)
区分管理を怠った業者の役員らの責任に関する判決 4.幸せwin,大橋ひかる,マネースクウェアジャパン
(東京地方裁判所平成20年10月16日判決)
アフィリエイトに関して,FX業者の責任も肯定したもの 5.コメックス
(東京地方裁判所平成22年5月25日判決)
認知障害により取引状況などを再現できない事案において参考になる 6.シー・エフ・ディー
(東京地方裁判所平成18年4月11日判決,東京高等裁判所平成18年9月21日判決)
私的差金決済契約の違法性を初めて正面から認めた東京高裁の判断 7.リベラインベスティメント
(東京地方裁判所平成24年2月24日判決)
関連会社への資金流用などに関するもの 8.東京シティホールディング
(東京地方裁判所平成19年1月30日判決)
FX業者の区分管理責任に関するもの 9.ハーベスト・フューチャーズ
(東京地方裁判所平成17年7月12日判決)
公設の先物業者が行っていた外国為替証拠金取引について取引自体を違法であると判断したもの 10.日本エフエックス
(東京高等裁判所平成18年11月29日判決,東京地方裁判所平成18年6月8日判決)
外国為替証拠金取引業者の区分管理の義務,小会社の監査役にも責任を認めたもの 11.ICC,インターナショナル・カーレンシー・チェンジャーズ
(東京地方裁判所平成17年10月17日判決,東京地方裁判所平成18年4月27日判決)
かつての外国為替証拠金取引商法被害事案 12.キャピタルベネフィット
(東京地方裁判所平成17年11月11日判決)
かつての外国為替証拠金取引商法の仕組み自体の違法性を早い時期に指摘したもの 13.リベラインベスティメント
(東京地方裁判所平成17年2月1日判決)
外国為替証拠金取引業者が清算金の返還すら拒んだ事例 14.サンワ・トラスト
(東京地方裁判所平成18年1月24日判決,東京地方裁判所平成18年8月30日判決)
後付けで取引をした外観を作出して金銭を騙取するという著しく悪質な事案。和解合意の効力について「権利の濫用」を理由に否定している珍しい例 15.日本エフエックス
(東京地方裁判所平成19年1月24日判決)
外国為替証拠金取引の取引自体の違法性を端的に指摘するもの 16.アイ・エス・テクノロジーほか(121ファンド関係)
(1事件:東京地方裁判所平成25年11月13日判決,東京高等裁判所平成26年7月10日判決,2事件:東京高等裁判所平成26年9月17日判決,東京地方裁判所平成25年11月28日判決)
収納代行業者であると強弁した業者や,詐欺商法のナンバー2の地位にあった者の責任を正しく指摘するもの 17.有限会社リンク(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成24年4月23日判決)
中間代理店の過失を取引の荒唐無稽さから導いたもの 18.エイ,Truth Company(121ファンド関係)
(東京地方裁判所平成25年1月21日判決)
121ファンド商法の主要な代理店であった業者らの責任 19.エスペイ(121ファンド関係)
(東京高等裁判所平成24年12月20日判決,東京地方裁判所平成24年6月22日判決)
過失相殺をした1審の判決を取り消した控訴審判決